持続可能な船の旅、世界で最も環境に配慮したクルーズ会社5選

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CO2排出量が多いとされるクルーズ業界で、環境に配慮する取り組みが進んでいる/Dirk Meussling/Star Clippers

CO2排出量が多いとされるクルーズ業界で、環境に配慮する取り組みが進んでいる/Dirk Meussling/Star Clippers

(CNN) クルーズが好きで、かつ自らを環境に配慮していると考える旅行者にとって、「環境に優しい」クルーズというコンセプトはピンと来ないかもしれない。

実際、二酸化炭素(CO2)を排出する船舶、ゴミや下水、雑排水といった大量の廃棄物、オーバーツーリズム(観光公害)などで知られるクルーズ業界は、環境違反による罰金問題は言うまでもなく、サステナビリティー(持続可能性)に関する課題は山積みだという。

だが、より厳しい規制や世界的な環境基準が設定され、消費者がクリーンで環境に優しい旅行を求めるようになるにつれ、船上での体験を大幅に持続可能なものにするために懸命に努力しているクルーズ会社が存在する。

「どのクルーズ会社も、CO2排出量の調査から改善まで、環境に配慮した取り組みに投資している」と、クルーズレビューを行うウェブサイト、クルーズ・クリティークのコリーン・マクダニエル編集長は説明する。「各クルーズ会社にとって、これは最重要事項です」

そして今日では、プラスチック製ストローの使用禁止やリネンの再利用といった基本的な持続可能性の実践だけでは、大きな変化をもたらすのに十分ではない。真のイノベーターは、クリーンな代替燃料や環境に優しい港湾インフラなどの技術的ブレークスルーを通じ、積極的に脱炭素化を追求しているクルーズ会社だ。

クルーズ業界は2019年、約3000万人の乗客を輸送し、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)前の世界経済に1540億ドル(約20兆円)以上をもたらした。パンデミックによる一時的な停滞にもかかわらず、クルーズ業界は今年末までにこの数字を上回る勢いを見せている。クルーズを支持する人たちは、地域経済を支え、クルーズ愛好者たちに環境と文化への意識を持たせることで、クルーズは善の力になり得るとしている。

だが、クルーズ船は公害をもたらす重油(HFO)に依存しているため、50年までにゼロエミッション(廃棄物の排出量を実質ゼロにする)を目指す国連の目標とは相いれない。現在、クルーズ船とその他の船舶は、毎年世界の温室効果ガス排出量の3%近くを占めている。クルーズ船の乗客1人当たりのCO2排出量は、飛行機を利用した際の排出量よりも多いと言われており、パシフィック・スタンダードのリポートによると、クルーズ中は1人当たりの平均CO2排出量が3倍になることが明らかになっている。

クルーズ業界最大の業界団体であるクルーズライン国際協会(CLIA)の加盟船社は、50年までに08年比でCO2排出量を完全にゼロにし、30年までに排出量を40%削減することを目指している。

だが、こうした目標が掲げられる一方で、うわべだけ環境に配慮したように見せかける「グリーンウォッシング」が横行していると指摘する声もある。環境保護団体フレンズ・オブ・ジ・アースのディレクター、マーシー・キーバー氏は「持続可能性を主張する多くは、単なるグリーンウォッシュか、陸の観光で長年行われてきた『持続可能性』対策と同類だ」と話す。

こうした例は、炭素や硫黄の排出量が多いHFOから、よりクリーンな代替燃料への置き換えを検討する船会社で見られるという。低炭素の液化天然ガス(LNG)は、持続可能性の達成に向けた「足がかり」となる燃料ソリューションとして広く期待され、CLIAの加盟船社が発注する新造クルーズ船の半数以上が主推進力にLNGを採用している。

しかし、環境保護主義者や科学者らは、LNGは枯渇性資源で汚染を引き起こす化石燃料であり、長期的にはHFOよりも大きな環境破壊を引き起こす可能性があると警鐘を鳴らしている。

スタンフォード大学の大気・エネルギープログラムのディレクターであり、「No Miracles Needed: How Today’s Technology Can Save Our Climate and Clean Our Air」の著者であるマーク・ジェイコブソン博士は、簡単に言えば「LNGは汚れた燃料」だと指摘する。LNGの直接的な大気汚染物質の排出量は重油よりも少ないが、依然としてかなりの量であり、上流の排出量とフットプリント(環境への負荷)は重油よりも大きい。これはフラッキング(水圧破砕法)などの持続不可能な抽出方法やメタン副産物といった要因に起因しているという。

ジェイコブソン氏のような専門家らは、業界は新しいゼロエミッションのエネルギー技術にもっと焦点を当てるべきだと提唱する。同氏は、船舶にとってはるかにクリーンな燃料は、バッテリー電力と環境に優しい水素燃料電池であると説明。「どちらの場合も、(水素燃料電池の場合は水蒸気を除いて)船舶からすべての排出物が排除される」と述べている。

CLIAによると、今後5年間に就航するクルーズ船のうち15%以上は、動力源に水素燃料電池やバッテリー電力が採用されるという。

持続可能性を巡り、もう一つ期待できるのは、停泊時にCO2を排出しない陸上電力(陸電)供給システムへの移行だ。現在、新たに建造される船舶の大半は、停泊時に燃料を燃やすエンジンを停止し、港の送電網に接続できるよう設計されており、大気汚染やそれに関連する健康問題を軽減できるとしている。だが、CLIAに加盟する船舶が寄港する1500以上の港のうち、現時点で陸電供給に対応するインフラを備えた港は29港に過ぎない。

環境に優しいクルーズへの道のりは長く、「旅の選択肢として、クルーズ旅行は今後も環境に最も悪い旅の一つ」とキーバー氏は警告するものの、本記事では環境に配慮した取り組みで他社をリードする5つのクルーズ会社を紹介しよう。

フッティルーテン

フッティルーテンは船内で利用する使い捨てプラスチック製品を段階的に廃止した初のクルーズ会社だ/Ole Martin Wold
フッティルーテンは船内で利用する使い捨てプラスチック製品を段階的に廃止した初のクルーズ会社だ/Ole Martin Wold

130年の歴史を持つノルウェーの探検クルーズ会社フッティルーテンは、持続可能性の精神を自社の根幹に据えている。グリーンエネルギー分野で他社をけん引する同社は、10年以上前に小型船の燃料を従来のHFOから、船舶用ガスオイルやバイオ燃料などのより環境に優しい代替燃料に置き換えた。

19年には世界初の電気推進を取り入れたハイブリッド燃料型探検船が就航。現在、残りの探検クルーズ船もハイブリッド燃料型に転換中で、30年までには世界初のゼロエミッションクルーズ船の就航を目指している。

また、停泊時は陸電設備を利用することで、CO2排出量の削減に努めているほか、船内で利用する使い捨てプラスチック製品を段階的に廃止した初のクルーズ会社でもある。

ポナン

ポナンはクルーズ会社として初めてグリーンマリン認証を取得した/Gilles Trillard
ポナンはクルーズ会社として初めてグリーンマリン認証を取得した/Gilles Trillard

フランスの高級クルーズ会社ポナンは、21年にLNGと電気バッテリーによるハイブリッド推進システムを搭載した砕氷船「ル・コマンダン・シャルコー」(乗客定員245人)を就航。25年までには、「ゼロインパクト」船を建造する計画だ。

また同社は、クルーズ会社として初めてグリーンマリン認証(北米で事業を展開する海洋産業を対象とした環境認証プログラム)を取得し、CO2排出量を100%オフセットしている。

ポナンが所有する全客船は陸電供給システムに対応。また、使い捨てプラスチック製品の使用を廃止し、旅程を組む前には環境影響調査を実施している。

スター・クリッパーズ

スター・クリッパーズの帆船は最大80%の時間を風力のみで運航する/Star Clippers
スター・クリッパーズの帆船は最大80%の時間を風力のみで運航する/Star Clippers

モナコを拠点とする帆船クルーズ会社のスター・クリッパーズは、大型帆船を3隻(乗客定員166~227人)保有し、帆船は最大80%の時間を風力のみで運航している(それ以外には低硫黄の軽油を使用)。

船のサイズが小さいため、全体的な環境への影響が少なく、観光客の少ない港へのアクセスも可能だ。例えばコスタリカでは、スター・クリッパーズは、コスタリカ観光局から環境認証「プラ・ビダ・プレッジ」を受けた最初のクルーズ会社である。

ハビラ・ボヤージュ

ハビラ・ボヤージュの船はバッテリーで最大4時間の航海が可能/Havila Voyages
ハビラ・ボヤージュの船はバッテリーで最大4時間の航海が可能/Havila Voyages

ノルウェーのクルーズ会社ハビラ・ボヤージュは、計画中のハイブリッド船4隻のうち2隻が就航済みで、ノルウェー沿岸を運航している。

船には世界最大の旅客船用バッテリーを搭載し、ユネスコ(国連教育科学文化機関)の世界遺産に登録されているノルウェーのフィヨルドを、最大4時間にわたり、静かに排出ガスを出さずに航海することを可能にした。

また、バッテリーは港で地元の電力網から供給されるクリーンな水力発電エネルギーで充電でき、停泊中の船に電力を供給するのに十分なパワーもある。現在はLNGも使用しているが、同社は最終的に排出ガスを出さない船を目指しており、技術が確立されれば、水素エネルギーに移行できるように設計されている。

エクスプローラ・ジャーニーズ

エクスプローラ・ジャーニーズは27年に、水素燃料電池とメタンスリップ削減技術を備えた世界初のLNG動力のクルーズ船を就航予定/Explora Journeys
エクスプローラ・ジャーニーズは27年に、水素燃料電池とメタンスリップ削減技術を備えた世界初のLNG動力のクルーズ船を就航予定/Explora Journeys

スイスの海運会社MSCグループが手掛ける新高級クルーズブランド「エクスプローラ・ジャーニーズ」は今夏に就航する。27年には、水素燃料電池とメタンスリップ削減技術を備えた世界初のLNGを動力とするクルーズ船をデビューさせる計画だ。

エクスプローラ・ジャーニーズはイタリアの造船会社フィンカンティエリと提携。海上では温室効果ガスの排出量を大幅に削減し、港に停泊中に排出するのは水蒸気と熱のみという。

このほかにも、使い捨てプラスチックの使用を禁止したり、海洋生物へ悪影響を及ぼさないよう水中騒音低減の認証を取得したりするなど、さまざまな取り組みを行っている。

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