再び舞いあがれ! 飛躍を目指す航空業界のいま

水際対策として2年半以上にわたって厳しい入国制限がとられ、深刻な影響を受けてきた航空業界。10月の水際対策の大幅緩和や全国旅行支援で、いま航空需要が急速に高まっています。再び舞いあがろうと奮闘する航空業界のいまを探りました。

(大阪放送局 関西空港支局 記者 小野明良)

一時は需要激減 関西空港のいま

関西と世界を結ぶ空の玄関口、関西空港。
大阪出入国在留管理局関西空港支局によりますと、11月に関空から入国した外国人は24万7000人あまり。感染拡大前のおよそ35%まで回復しました。

10月に水際対策が大幅に緩和されてから、関西空港には朝から晩までスーツケースを持った人々が続々と降り立ち、国際線のロビーは、かつてのにぎわいを徐々に取り戻し始めています。

世界的な感染拡大は、航空業界に暗い影を落としました。
国際線はほとんど運休。
利用者数は、一時、感染拡大前の1%以下にまで落ち込みました。

国際線のロビーからは人の姿が消え、照明も落とされる、廃墟のような雰囲気すら漂っていました。

感染拡大直前の2020年初めにはおよそ2万人が関西空港で働いていましたが、空港以外の会社に出向したり、コロナ禍が長期化するなかで離職したりする人も相次ぎました。

仕事がなくて出向… 一転、人手不足に?

機体の誘導や、手荷物の積み降ろしなどの仕事に従事している、西田司さん(27)です。

飛行機の運航を支える仕事がしたいという幼い頃からの夢を実現し、やりがいを感じていましたが、コロナ禍で業務が激減。

西田さんは、1年前、空港での業務とは全く関係のない外部の企業に出向しました。

西田さん
「あんなに大きな飛行機をみんなで協力して運航させることに憧れて、この仕事に就きました。コロナ禍で便が減り始めると、出勤しても1日の稼働時間は4時間とかになって、どんどん仕事がなくなりました。出向はないかなと思ってたんですけど、自分が出向することになり、正直びっくりでした」
別会社での半年間の出向を経て、西田さんは関空の現場に復帰。

到着した機体から荷物を降ろして、旅客が受け取る場所へ運ぶ業務にあたっています。

最近は忙しさが日に日に増し、人手不足すら感じると言います。

西田さん
「フライトが増えてきたことで、荷物の積み降ろしはタイトなスケジュールで行う必要が出てきました。以前より勤務時間も長くなっています。忙しくなってきて、人手は欲しいです」
西田さんが所属するのは、航空会社の依頼を受けて、チェックインの案内や、荷物の積み降ろし、機体の整備など、グランドハンドリングと呼ばれる、さまざまな地上業務を担う会社です。

パイロットや客室乗務員だけでなく、西田さんのようなグランドハンドリングを担う人がいなくては、飛行機の運航は成り立ちません。まさに縁の下の力持ちです。

この会社では、長引くコロナ禍で、およそ1000人いた社員の4割が出向を経験。1割ほどが離職しました。

需要が回復し始めたここ数か月、会社は西田さんのように出向していた人を相次いで現場に呼び戻していますが、それでも手が足りません。
このため会社では、新規採用に力を入れています。

人事部は毎日のようにオンラインで説明会を実施。

そこでアピールするのは、「安定したやりがいのある職場」だということ。
感染拡大で需要が大きく落ち込んだことで、航空業界は不安定な仕事だというイメージが広がったという懸念があるからです。

こうした訴えを続けることで、多い月には数十人の採用につながっています。
スイスポートジャパン 吉田一成 代表取締役社長
「コロナ禍により、航空業界は『安定しない業界なのではないか』と見られてしまっているところは、少なからずあるのかなと思います。ただ、やはり、人の移動したいという欲求がなくなることはないということは、ここ最近の世界的な往来の再開を見れば明らか。旅行需要がなくなることはないと、コロナ禍で証明されたのではないでしょうか。われわれ航空業界、旅客関連は再び伸びていくマーケットだと思うので、業界の魅力を発信しながら、人材の採用・育成をしていきたい」

“桃色”エアラインは青息吐息 望みを託すは国際線

関西空港を拠点にしている、LCCのピーチ・アビエーションもまた、コロナ禍で業績は大きく落ち込みました。

17路線あった国際線はすべて運休。

去年、おととしと、2年続けて過去最大の赤字を更新し、負債が資産を上回る「債務超過」の状態に陥りました。

その規模は前の年度のおよそ3倍にあたる727億円に膨らみました。
そんなピーチ・アビエーションが、業績回復へ望みを託すのが、コロナ前は収益の半分を占めていた国際線です。

LCCのビジネスモデルは効率性を重視した「薄利多売」。

さらにピーチ・アビエーションの場合、拠点とする関西空港が国内でも数少ない24時間運用で、夜中の発着も可能です。

これを強みに、国内便が飛ばない早朝や深夜の時間帯に国際便を運航し、限られた数の機体で最大限の収益を得るねらいです。

ピーチ・アビエーションは、世界的な往来再開の風向きを感じると、ことし8月以降、韓国路線を手始めに、運休していた路線を再開。
来月には香港路線を再開しようと、国際線の就航担当者は、現地の営業代理店と打ち合わせを重ねています。

ピーチ・アビエーション 航空事業企画室 ネットワーク企画部 クオン・キティさん(香港出身)
「香港人の若い人の中には、日本についてのスラングがあるんです。よく日本に行く人は、訪日という言い方ではなくて、「帰省する」って言うんです。私が出身地である香港に帰りたいと思うように、香港人の中には、日本にまた行きたいと思っている人がいるので、弊社の香港路線の復活が手軽な“帰省”の一助になればうれしいです」

さらに12月末には、タイ バンコクとの路線を週6往復で新たに就航させます。

日本から向かう人、逆に日本へ向かう人、双方から需要が高い路線への参入です。
会社の広報担当者は、12月上旬、バンコクを訪れました。

路線の利用者をいかにひきつけるか、戦略を練るためです。

きらびやかな仏教寺院や、屋台が軒をつらね、ストリートフードが多くの人を魅了するバンコク。日本から多くの利用客が見込めます。
担当者は、市場を視察したほか、タイ政府の観光庁の高官とも面談して、新たな路線の就航をアピールしました。

さらに東南アジア有数のハブ空港であるバンコクから新規路線を使って、多くの人に日本に来てもらおうと、現地のPR会社と打ち合わせ。

コロナ禍を経て、現地でも人気が高まっている日本への旅行で使ってもらうための、広報戦略を話し合いました。
ピーチ・アビエーション 広報室 山下華愛 課長
「タイの観光庁さんにうかがって、東アジアの副局長から新しいビジネスパートナーとして期待をしていると、身の引き締まる言葉をいただきました。タイから関空に来てもらって、関空から国内線で日本各地へ手軽に旅行に行くことができるので、国内線と国際線のシナジー効果を最大化したいですね」
コロナ禍に翻弄された、国内最大手のLCCは、再び舞いあがれるのか。

ピーチ・アビエーションは、業績回復には需要が見込まれる路線への参入が重要だといいます。

ピーチ・アビエーション 福島 志幸 航空事業企画室長
「2022年を振り返ると、初めは収入としてはかなり厳しい状況でした。その頃は黒字にはほど遠かったですが、夏にはなんとか営業利益をあげられるようになってきました。業績を急回復して、2023年をことしよりいい年にするためには、コロナ前に運航していた既存路線の再開だけを見ていてはだめで、新規路線もチャレンジしていくのが、一番はやく回復できる戦略だと思っています」