いまだマスク姿の日本人 「脱コロナ」訪日外国人のホンネ

水際対策の緩和後、京都には多くの外国人観光客が訪れている=京都市東山区
水際対策の緩和後、京都には多くの外国人観光客が訪れている=京都市東山区

政府による新型コロナウイルスの水際対策の大幅な緩和が行われてから1カ月あまり。多くの観光地を持つ京都や、国内各地ではインバウンド(訪日外国人客)の姿が目立つようになった。海外では脱マスクの動きが進む中、屋外でもマスクを着用している日本人の姿や日本のコロナ対策は訪日客の目にどう映るのか。「Funny(変だ)」「コロナは昔の出来事」。訪日客の言葉から、約2年半の〝鎖国〟を終えたばかりの日本の姿が見えてきた。

11月下旬、紅葉シーズン真っただ中の京都・清水寺周辺。修学旅行生や国内外からの観光客らで混雑し、土産物店からは客を呼び込む威勢のいい声が飛び交う。コロナ禍前と同じ光景だが、多くが着用しているマスクがパンデミックの名残を感じさせる。

「ほとんどの日本人が屋外でもマスクをつけており感染対策への意識の高さを感じる」

こう称賛するのは、着物姿で記念撮影をしていた米ニューヨークから訪れたキャサリン・ナップさん(73)だ。米国ではマスクの着用義務は撤廃されているが、「感染を防げるなら着用すべきだ」との考えから日本旅行中はマスク着用を欠かさない。

一方、米オレゴン州の会社員、サンドラ・マルティネックさん(45)は、岸田文雄首相が屋外でのマスクは原則不要と示したことに触れ、「それでもみんながマスクをしているのはなんだか変」と肩をすくめた。

日本政府観光局(JNTO)によると、10月の訪日客数は49万8600人(推計値)。水際対策緩和の影響を大きく受けたとみられ、コロナ禍前には及ばないものの、9月の20万6500人から約2・4倍、前年同月比で約22倍以上となった。

政府は緩和に伴い、訪日客に手洗い、消毒の徹底や人との距離が保てない場合にはマスクを着用するよう呼びかけている。

マスクを着用して観光を楽しむ外国人観光客=京都市東山区
マスクを着用して観光を楽しむ外国人観光客=京都市東山区
屋外ではマスクを外している外国人観光客も=京都市東山区
屋外ではマスクを外している外国人観光客も=京都市東山区

ただ、欧米を中心にマスク着用義務が撤廃されている国も多い。フランスから訪れた高校教師のマノンさん(30)によると、自国では「ノーマスク」が当たり前。コロナへの関心低下が影響しているという。

世界保健機関(WHO)によると仏での1日当たりの新規感染者数は、10月中旬の約10万人をピークに現在は数万人で推移しており、下火だ。特に今年2月のロシアによるウクライナ軍事侵攻後、ニュースはウクライナ報道が主となり、「多くの人がコロナは『昔の出来事だ』と考えている」と明かした。日本では連日新規感染者数が公表され、感染「第8波」到来が報道されている現状に「まだ数えているの」と驚いた様子だった。

連日数万人の感染者が報告されているドイツでは、新規感染者数は報道されるが、プログラマーのケビン・ヴァイグルさん(26)は「昨年と比べてもワクチン接種者が増え、コロナが怖い病気ではなくなっている」と話した。

訪日客の言葉からは、コロナに対する価値観が大きく変化していることがうかがえる中、日本人がマスクを外さないのには感染対策以外の理由があるのではないかという声も聞かれた。

「日本人は感染予防だけでなく、他人からの印象、評価を恐れてマスクをつけているのでは」と推測するのは、英国在住のギリシャ人研究者、エヴィ・クリストフィドゥさん(35)。京都市内で電車に乗っていた際、乗車してきた客がノーマスクの客を避けて座ったことを例に挙げ、「日本でマスクをしていない人は特異な目で見られているかのようだった」と振り返った。さらに、こうした周囲の目線こそがマスクを外せない要因なのではないかと分析した。

旅行会社に30年以上勤務し、訪日客の動向に詳しい京都橘大の福井弘幸准教授(64)は「もともと欧米人はマスクをする習慣がなかったため、日本人のマスク姿は奇異に映ることもあるだろう」と指摘。一方で、一般的に世界では日本が衛生的な国であるとの認識が高いとした上で、「コロナ禍を経て日本人のマスク姿はむしろ好意的に見られ、安心・安全の旅先として今後も訪日客は増えるのではないか」と指摘している。(木下倫太朗)

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