【実録】出張先のロンドンでコロナ陽性に 「陰性になるまで帰れない」のは色々な意味で厳しい

黒川 裕生 黒川 裕生

7月初旬、出張先のロンドンで新型コロナウイルスに感染してしまった。心当たりは…ある。正直に言うと、かなりある。そもそも規制が緩和されたイギリスでは今やほとんどの人がマスクを着けていない。仕事の合間に足を運んだ性的マイノリティーの地位向上を訴える「プライド・パレード」では、密集状態のピカデリー・サーカスで大きな歓声を上げる人たちと1時間ほど一緒にいたし、夜の繁華街を歩いた際には路上で飲みながら大騒ぎする集団と何度もすれ違った。ロンドン滞在中、地下鉄やバスの車内、人が多い場所などでは意識してマスクを着用していたものの、これでは感染しない方が難しいのではないかと感じたほどだ。さて2022年夏現在、渡航先で陽性になったらどうなるのか。陰性になるまで日本に帰れないのである!

外務省が周知している内容はこうだ。

「現在、日本人を含む全ての入国者は、出国前72時間以内に検査を受け、医療機関等により発行された陰性の検査証明書を入国時に検疫所へ提示しなければなりません」

また厚労省は水際対策として、このような通達を出している。

「全ての入国者(日本人を含む)は、出国前72時間以内に検査を受け、医療機関等により発行された陰性の検査証明書を入国時に、検疫所へ提示しなければなりません」
「有効な検査証明書を提示できない方は、検疫法に基づき、日本への上陸が認められません」
「出発国において搭乗前に検査証明書を所持していない場合には、航空機への搭乗を拒否されます」
「検査証明書の取得が困難かつ真にやむを得ない場合には、出発地の在外公館にご相談ください」

要するに「帰国前のPCR検査が陰性でなければ日本に入れませんよ」ということである。私の場合、当初の予定では7月6日にイギリスを出国し、7日に帰国するはずだったのだが、4日に現地の医療機関で受けた検査で陽性判定が出た。時差ボケで寝不足ということの他は体調に変化がなかったこともあり、まず頭に浮かんだのは「何かの間違いではないか」。だが、念のため日本から持ち込んでいた抗原検査キットを試すと、やはり陽性だった。

コロナ禍が始まってから、幸い一度も感染しないまま来ていたこともあり、心のどこかで「自分は大丈夫」という思い込み、というか油断がなかったと言えば嘘になる。とはいえワクチンを3回接種していたお陰なのかどうなのか、特に自覚症状はない。そしてフライト(6日19時発)まではまだ、ほぼ丸2日の猶予がある。日本にいる上司に連絡し、とりあえず予定通りの出国を目指して翌日(5日)再検査することにした。そう、我ながら滑稽なことに、この時点ではまだ7割くらいは「間違い」を疑っていたのだ。

その夜はさすがに眠れずにSNSなどで経験者の投稿をひたすら検索していると、ゾッとするような情報が目に入ってくる。「陰性になるまで2週間かかった」「いや、1カ月くらい続くらしい」「腰を据えて療養するしかない」などなど…。かと思えば「陽性だったが、直後に再検査したら陰性で帰国できた人がいる」という書き込みも。人の書き込みに右往左往するばかりで、日本を発つ前に、陽性になった場合のシミュレーションは軽くしていたつもりだったが、実際になってみると準備も想定もほとんどできていなかったと思い知らされた。先のことを考え始めると悪いイメージばかり浮かんでくるので、余計に目が冴えてくる。ありがたいことに、会社からは「海外で心細いでしょうが、全力でサポートするので療養に専念してください」との温かい励ましを頂戴したが、まさか出国できないなんてことがあり得るのだろうか?

ホテルの予約やフライトの変更はどうすれば?

で、ほぼ一睡もせずに翌日受けた検査も陽性。相変わらず症状はないが、どうやら本当に大変なことになってしまったらしい。空港では4時間ほどで結果が出るスピード検査もあるらしく、翌日のフライト前にダメ元でこれも受けてみることにしたが、おそらくもう無理だろう。さてさて、とりあえずは予定になかった今後の宿の手配やフライトのキャンセル手続きに入らなければならない。

ところが、作業を始めていきなり途方に暮れてしまった。自分がいつ陰性になるかわからないので、宿が何泊分必要で、何日後のフライトを予約すればいいのか、見当もつかないのである。別の国で2週間も足止めを食らったという知り合いからは「食料品を買い込んでアパートタイプのホテルにこもり、とりあえず数日様子を見る。1週間後かそれ以降に、陰性証明をもらえるまで頑張って検査を受ける」「早く帰りたいだろうが、1〜2日おきに検査を受けても無駄」「ここから2週間は覚悟すべし」というありがたくも厳しいアドバイスが。マジかよ。

上司と相談した結果、最初の検査からちょうど1週間後の7月11日にあらためてPCR検査を受けることに決め、差し当たっては6日から12日までの宿泊先を確保することに。やるべきことが明確になったのでスッキリ! と吹っ切れたのも束の間、夏の旅行シーズンと重なっていたためかこれが思いのほか大変で、予算内で連泊できるところが見つからず、3カ所に分けて取らざるを得なかった。結局、1週間分の寝場所が全て確定するまで、ほぼ半日を費やしてしまった。

本来のフライト当日である6日朝、無駄な足掻きと知りながら、ヒースロー空港の片隅に設けられた検査所で3回目のチャレンジ。結果はどうあれ、すでにこの日のフライトはキャンセルしていたのに、それを忘れて空港のカフェでじりじりしながら本を読んで結果を待つ。

結果は陽性。

さすがにこの頃には「もうどうにもならん」という気持ちになっていたので、予約していた空港近くのホテルへ粛々と移動し、何も考えず泥のように2日分寝た。

イギリスは陽性者も隔離不要、水際措置も撤廃

ところで取材で知り合ったロンドン在住の日本人によると、イギリスではすでに陽性でも隔離不要になっているという(とはいえ倫理的な観点などから、陽性者の多くは自宅で自己隔離しているそうだ)。医療機関からの検査結果メールにもそのようなことが書いてあった。追跡フォームなどの水際措置も2022年3月に撤廃されており、イギリス入国に際してコロナ関連のチェックは全くなかった。

ロンドン郊外の宿に移った翌日から、しばらく大人しく過ごすことに決め、この際なので期間限定で無料公開されていた「ONE PIECE」を第1話からひたすら読む日々がスタート。連載が始まった当時は掲載誌である「週刊少年ジャンプ」で毎週楽しく読んでいたのだが、アラバスタ編の途中で挫折したままになっていたことがずっと心残りだったのだ。頑張れルフィ、頑張れ私。

10日からロンドン中心部の宿へ。相変わらず自覚症状は皆無である。「こんなことなら予定通り帰国してもよかったのでは」と思わなくもなかったが、飛行機内などで人にうつしてしまう可能性などを考えると、やはり難しいのだろう。異国で“ゴール”が見えないまま1人で療養/隔離生活を続ける心細さ(金銭的な意味も含めて)はなかなか想像を絶するものがあった。検査が陽性でもとりあえずどうにか日本までは帰らせてもらえないでしょうか…帰国後は隔離でも何でも指示に従いますので…というのが現地で強く感じたことだった。

頼もしくも非情な日本の水際対策

翌日の4回目のPCR検査を前に、10日夜に抗原検査キットを試したところ、ようやく陰性の印が。「ヨッシャー!」と喜び勇んで、翌日、すっかり通い慣れた医療機関で受けたPCR検査でも陰性となり、ついに帰国への道が開けた。「MySOS」という検疫手続きのアプリも、必要事項を入力して送信したところ、“問題なし”の青色に。今回の取材を手配してくれた代理店の動きが早く、なんと翌12日のフライトが取れたため、一夜明けるとバタバタと空港へ向かい、最後は若干慌ただしく帰国の途に就いた。

当初の予定から6日延びたロンドン滞在。感染後も無症状だったことと、わずか1週間で陰性になったことは、今にして思えば本当に幸運だった。もしこれで症状が出た上に陽性が長期に及んでいたら、病院のことなども考えなければならず、無事に乗り切れたかどうか自信がない。会社や取材先、家族、友人から常に温かい言葉をかけてもらえたことも心強かった。

海外から日本に入国する人の目的は、仕事や観光とは限らない。例えば普段は外国に住んでいて、日本の家族に会うためというケースも少なくないはずだ。何週間、あるいは何カ月も前から予定を調整し、航空券も確保したのに、フライト前の検査結果で日本に飛べなくなったら、そのやり切れなさは察するに余りある(後で知ったが、海外在住の私の従兄弟がまさにこれを経験したらしい)。日本の水際対策、頼もしいやら非情に感じるやら。しかも今は「第7波」で過去最多の新規感染者が連日報告されている。以前のように自由に国境を越えて気兼ねなく行き来できるようになるには、まだまだ時間がかかりそうだと感じた出来事だった。

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