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MICEスペシャリスト:日本旅行法人営業統括本部MICE営業部部長 石垣隆久氏

  • 2011年5月31日(火)

顧客との深いコミュニケーションで、琴線に触れる提案を

 日本旅行は2009年にMICE専門部署を立ち上げ、地方ごとに実施していたMICE営業を統括し、全国規模で展開している。そのMICE営業部設立時から部長を務める石垣隆久氏は、就任以前からMICE営業に携わり、東京南支店長時代も顧客と直に接して現場感覚を大切に取り組んでいたという。今回は石垣氏に、日本旅行が取り扱うMICEの特徴や、過去の事例から学んだMICEを成功に導くためのポイントについて聞いた。

 現在の取り扱いは、研修・会議が30%強、報奨旅行が15%、イベント・学会・コンベンション部門が25%で、その他は取引先からの招待旅行といった販売促進を目的とした旅行などだ。

 MICEにおける当社のねらいは「継続」だ。もともと現場では、取扱額の多い大型インセンティブを主に担当してきた。しかし1991年の湾岸戦争に始まり、SARSやリーマンショック、今回の東日本大震災など社会情勢を左右する事件や出来事が発生するたび、影響を受けやすい大型インセンティブだけに依存するのはリスクが高いと考えるようになった。こうした状況を踏まえ、研修や会議に加え、シンポジウムやセミナーといった定期的に開かれる「M」の部分にも力を入れていく。

 昨今の欧米や日本の外資系企業では、経費を管理し、戦略的にMICEを運営する「ストラテジック・ミーティング・マネジメント(SMM)」という概念が導入されており、MICEに支払われるべき予算が非常に明確だ。特に会議の分野では、単発で依頼するのではなく、2年、3年の契約を求める傾向がある。これは新しいビジネスモデルだ。研修や会議は旅行というキーワードからはずれる部分もある。当社では、旅行から脱却したビジネスモデルを展開していきたい。

 一方、インセンティブも引き続き扱っていく。インセンティブは海外での実施がメインだ。インセンティブでは参加者それぞれの旅行に対する価値観が高まってきている。参加者に満足していただくためには、ベニューやパーティの工夫、アフターコンベンションの充実などに取り組んでいかなければならない。それがMICEの受注に繋がってきており、2010年は2000人規模の大型インセンティブをイタリアや韓国などで実施した例もあった。

 沖縄で今年初めて、日本、韓国、台湾の少年野球チームを招聘し、野球とエコロジーを絡めたイベントを開催した。これは、沖縄県が観光客誘致をはかるため実施している「元気プロジェクト」助成事業として手がけたもの。少年野球の交流試合や沖縄のサンゴに関する環境セミナーなどを実施し、日本のプロ野球のOB選手による野球教室も組み込んだ。OB選手が直接野球を教えることで、少年達に強いインパクトを与えることができ、参加者の感動を呼ぶことができた。今年の参加人数は200人規模だが、継続事業として600人から700人への拡大をめざし、海外の参加国も増やしていきたいと考えている。

 また、医療関連会社が今年予定しているユニバーサル・スタジオ・ジャパンでの貸切イベントでは、「数時間のイベントで一体感を出す」ことが求められていた。そこで、招待する家族のもとに、社長のメッセージを記載したウェルカムレターを届ける。開催前から、イベントへのワクワク感を演出するのがねらいだ。さらに、イベントは閉園後の夜間に実施するが、閉園間際は他の来場客も混在するため、その企業の参加者だと分かるように蛍光色のリストバンドを配布するという提案も評価され、受注につながった。主催者の課題を解決するためのちょっとした提案が、成功を呼んだ例だ。

 10年前は食事や交通の手配がいかに正確にできるかがポイントだった。しかしIT化が進んだ今は、たとえば出発の空港からMICEの様子をビデオ撮影し、最終日のフェアウェル・パーティで流すこともできる時代だ。そんなサプライズに旅行会社本来の正確な手配と柔軟な対応が加わることで、顧客の満足につながるだろう。

 MICEは提案の前のヒアリングが勝負だ。顧客にいかに情報を話していただくか、そのためにどう質問するか。顧客の琴線に触れる提案ができるよう、コミュニケーションで顧客の目的や要望を引き出すことが、もっとも重要なポイントだ。

 今までは宿泊施設や輸送手段などを正確に手配することがよい営業マンだったが、今はそれだけでは通じなくなってきている。目的をしっかりと具現化し、顧客の満足度を高めていかなければならない。聞いたことを具現化することは大変なことだが、お客様に感動してもらうことはとても嬉しいこと。MICE終了後に「よかった、ありがとう」と言われて、こちらもホロリとする、そんな結末をイメージしてもらいたい。

 以前は旅行会社の営業マンと顧客との距離は近いものだった。最近は営業に行ってもセキュリティの関係でビルに入れない場合もあり、顧客との関係が希薄になってきている部分もある。当社では参加登録や情報配信ツールとしてITシステムの活用を進めているが、一方では過去のアナログ的なコミュニケーションも忘れずに取り組ませていきたい。

 大切なのは、どんな時でも顧客から逃げないで真摯に対応すること。「ピンチは最大のチャンスなり」との言葉通り、忠告を受けた時に前傾姿勢で向き合うのか、心をそらして対応するかが大きな分かれ道だ。

 私の経験でも、イギリスで空港到着後からずっとVIPの顧客に怒鳴られっぱなしということがあった。ホテルに着いても「お前なんか帰れ!」と激怒されている。普通ならそこで怖気づくところだが、客室まで一緒に行き、鍵を開け、一緒に部屋に入った。

 怒鳴られながらも、熱いお茶を淹れ、カップで味噌汁を作り、日本食のお弁当を用意していたので差し向かいで出すと、それを食べた瞬間に一言、「お前の仕事もいろいろ大変だな」と。そのとき本当に、涙がこぼれるくらい嬉しかった。

 今、その方には自分を育ててくださったと、大変感謝している。顧客から逃げずにコミュニケーションをしっかりとろうとする姿勢で対応することで、時間が経つと顧客から「こいつはたいした奴だ」と認めてもらえるようになる。下がらず、前に進むような勇気が、今の若手にも必要なのではないだろうか。

震災の自粛ムードに対処、開催地の支援を

リストバンドはピンクと水色の2種類

 震災の影響により、MICEの開催にもキャンセルや延期の傾向が出てきている。石垣氏によると、2011年の目標は当初対前年比110%から120%を設定していたが、3月の時点では発生したキャンセルも多く、厳しい状況だ。たとえば医学系の学会では、参加者にあたる医者が震災の影響で多忙となった、参加者が減った例もあったという。さらに、旅行の自粛傾向が追いうちとなっている。

 こうした中、日本旅行ではMICE自粛をはばむため、1つ200円のリストバンドを作成し、販売することで義援金を募っている。石垣氏は「震災による自粛の気持ちはどうしてもあると思う」とした上で、「MICEは目的型のもの。自粛抑制の一助として義援金の寄付という目的をもっていただきたい」と取り組みを紹介した。参加者が同じリストバンドをすることで、会場の連帯感も生まれるという効果もあがっているという。


取材:本誌 栗本奈央子

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