旅行業・観光業DX・IT化支援サービス

日本文化体験サービスを逆境下でも拡大する理由とは?-Deeper Japan代表の石川光氏

文化を深堀りした体験をキュレーションして提供
対象エリアを次々に拡大、海外も視野に

石川氏。息子さんと北海道・網走の流氷の上にて(写真提供:Deeper Japan)  コロナ禍で壊滅的な打撃を受けているインバウンド業界。各社が苦戦を強いられるなか、2018年にサービスを開始した、インバウンド向けに日本文化体験を提供する企業内スタートアップ「Deeper Japan(ディーパージャパン)」は、サービス提供エリアを次々と拡大している。地方自治体と観光素材を開発するなど事業の幅を広げ、積極的な動きを見せているDeeper Japan代表の石川光氏に、事業拡大のねらいや今後の展望をうかがった。インタビューは1月18日に実施した。(聞き手:弊社代表取締役社長兼トラベルビジョン発行人 岡田直樹)

-まずは貴社の事業についてご説明ください

石川光氏(以下敬称略) Deeper Japanは経営コンサルティング事業を手がける合同会社シュタインの一部門として、インバウンド向けに日本文化体験を提供している。お客様は30歳以上の女性がメインで、大学院卒や教授など、高学歴で高所得者が多い傾向にある。

 販売チャネルはBtoBとBtoCで、BtoBは海外の旅行会社やランドオペレーターに加え、ザ・リッツカールトン東京などの国内のラグジュリーホテルがターゲットだ。ホテル内で体験を提供しているほか、日本文化体験を求める宿泊客に我々を紹介してもらっている。BtoCでは、日本文化体験の予約サイトを提供している。オンラインで決済まで完結する仕組みなので、ウェブサイトやSNSでサービスを見つけた人が直接予約できる。

 なお、コロナ禍の今は国内の富裕層に対しても体験を提供するほか、地域文化体験づくリのコンサルティングサポートなども実施している。

-Deeper Japanを立ち上げたきっかけを教えてください

石川 私は札幌市で生まれ、小学5年生から高校卒業までオーストリアのウィーンに住んでいた。ウィーンはニューヨークやジュネーブに次ぐ第3の国際都市で、国連の機関が多くあり、小さな町に多様な人種が集まっている。そこでさまざまな人間、宗教、人種に触れることで、日本やアジアの幅にとらわれない人との触れ合いを学んだ。

 日本に帰国後、現地の友人が訪日する際に日本文化を紹介したいと思ったとき、自分が日本についてあまり知らないと感じた。自分で勉強しなければという思いからスタートして、日本文化体験をサービスとして提供できるように事業を育ててきた。

 海外の方に日本文化を紹介する際は、例えばクジラを食べる文化はどう紹介するか?など、いろいろな問題がある。我々が文化体験を提供することで、お客様には「この価値観は間違っている」と一方的に否定するのではなく、文化の背景、地域の中での人々の生活の営みに触れていただき、日本を知ってもらいたい。知って気付いて意識してもらうことで、人と人とのコミュニケーションや理解、世界の広がりは違ってくると思う。

-ほかにも日本文化体験を提供するサービスはありますが、どのように差別化していますか

都内でのプロの能楽師に能を解説してもらい、舞台で一幕を演じるところまで体験するプログラム。通訳がつきっきりで対応してくれる 石川 ウェブサイトを完全にプラットフォーム化してお客様に評価してもらうのではなく、Deeper Japanとして文化体験を深掘りしたらどうなるのかを意識してしっかりキュレーションして、これこそ海外の友人に紹介したい、日本人に紹介しても恥ずかしくない、という体験を提供している。例えば茶道といっても、一杯のお茶を飲むのではなく、半日かけて濃茶と薄茶を茶道の先生としっかり体験できるようにしている。

 通訳についても弊社で厳選している。英語が堪能な先生は英語で話したりするが、ゲストが文化を理解しやすいように、可能な限り通訳ガイドを同席させている。現在は英語、フランス語、スペイン語、ドイツ語、イタリア語、中国語、韓国語、ロシア語に対応している。

 通訳は言語能力に加え、文化への知識も選定基準にしている。全員が文化に精通しているわけではないが、弊社で体験の背景などの情報を提供しており、学ぶ意欲のある通訳を選定している。さらに、お客様が好む距離感を理解し、思いやりを持って柔軟に対応できる人を率先して選んでいる。

 体験の講師についても、ある程度国内で認知されていることはもちろん、職人やアーティストの皆様方の意欲、海外の方に対する理解を重視している。