ビル・ゲイツが「出張半減」予測、果たして?-往来再開に向けた現状解説も

(※Photo by Serhat Beyazkaya on Unsplash

 トラベルビジョン前編集長が「世界の観光産業の今」をテーマに不定期で寄稿するこのコラム、まずはあのビル・ゲイツ氏が「出張需要は回復しても50%未満」という衝撃的な予想をしたことについて。日本ではあまり注目されていないようですが、海外の業界誌では先週から今週にかけて結構な取り上げられ方をしていました。

 ゲイツ氏は5年前にウィルスの感染拡大を予測していたと話題にもなっていたところで、一代で世界を変えてしまった天才の頭脳を前に最初は非常に不安な気持ちになりましたが、私のメールマガジンの読者の方からは「日本では言語や文化などの問題から今後5年から10年は相当数の駐在員と業務渡航は残っていくはず」というコメントが寄せられました。

 たしかに、少なくともコロナ前の100%に戻ることはないだろうというのが大方のコンセンサスであるものの、デルタ航空のCEOも「彼は出張者ではないし、それを予想するのに適した人物ではない」として、時期は読めないが力強く回復すると話されており、このあたりは人によって結構な幅があるようです。また、KLMのCEOもそんなに減らないと否定されています。

各国が慎重に制限緩和
検査の積極活用は共通も、そのタイミングは様々

 続いては、往来再開に向けた現在の流れについて書いていきます。状況を整理すると、まず当コラムでこれまでも触れていますが、大きくは「検査を積極的に活用することで隔離を短縮、廃止しよう」という方向に進んでいくことは間違いないと断言して良いと考えています。

 往復で合計28日間も身動きが取れなくなるようでは業務渡航にせよレジャーにせよほとんどの往来が止まるわけで、実際に世界中の旅行会社や航空会社が大打撃を受けているのは周知の通りです。そして旅行・観光産業は2019年現在で全世界のGDPの10.3%を占めているとされ、また人的往来が停止することによるビジネスへの影響も大きいために、各国政府も積極性の強弱はあってもなんとか安全に出入国の制限を緩和しようとしています。

 日本に距離が近いところで最も積極的なのはシンガポールで、グローバルなハブとしてのポジションを維持するためには「ワクチンは待っていられない」と公言ししています。香港との間のレジャーを含むトラベルバブルは感染の増加で2週間延期となりましたが、政府観光局のCEOは「ダンスパートナー」を探していく姿勢を示されていました。あるいはASEAN内のバブルも俎上に載っています。

 また、検査による陰性証明すら不要としたコスタリカなどは少々突飛な例ですが、感染増と再ロックダウンで苦しい印象の欧州でも、英国は12月15日から14日間の隔離は維持しつつ5日目の検査で陰性ならそれで終了という新ルールを適用する予定です。

 こうした検査による隔離の短縮については、国際民間航空機関(ICAO)が各国の参考となるようマニュアルも作成し、国際航空運送協会(IATA)や空港会社から大歓迎を受けているところでもあります。ちなみに、トロント空港の実験では到着時検査で陽性者の大半を検出でき、7日目と14日目の検査で陽性が発覚したのは全旅客の1%だったそうです。

 検査の推進で課題になるのが検査を受けるタイミングで、出発前、出発空港、到着空港、到着後何日後と様々なパターンがあり、それに検査の種類も色々とあるわけですが、これについてはまだ定石は見えてきてなく、これから欧州、ASEANなどの地域単位ですり合わせが進むのではないかと予測されます。ちなみにドバイ、ヘルシンキ、プラハの各空港では「コロナ探知犬」がテストされかなりの正確性を記録しているそうで、こうした策が組み合わせられていく可能性もあるでしょう。

「デジタル健康パスポート」は群雄割拠、WEFやIATAなど開発進める

 そして、今後もうひとつ焦点になっていくのが検査による陰性やワクチン接種を証明する手段で、特にスマートフォン等で利用可能な「陰性証明アプリ」、あるいは「デジタル健康パスポート」の開発が進んでいます。

 一歩前を行っている印象なのは世界経済フォーラム(WEF)とスイスのNPOなどによる「CommonPass」で、これまでにキャセイパシフィック航空とユナイテッド航空がテストを終え、12月にはルフトハンザ・ドイツ航空、スイスインターナショナルエアラインズ、ヴァージン・アトランティック航空なども使用を開始します。

 これに対して、今週IATAは独自の「IATA Travel Pass」を発表し、来年第1四半期の稼働を目指す方針を示しています。もう少し前には国際商業会議所とインターナショナルSOSが主導しブロックチェーン技術を活用する「AOKPass」も発表され、こちらには国連世界観光機関(UNWTO)も協力しているそうですし、さらに中国も習近平国家主席が「ヘルスコード」なる独自システムの普及をG20サミットで提案したと報じられています。

 こうして見ると群雄割拠というかなんというか、どこもそれなりのプレーヤーが揃っているわけですが、これらの覇権争いが普及を妨げるようでは本末転倒です。特にIATAなどはどれでもいいから一刻も早い浸透と往来の回復に集中するべきな気がするのですが、どうなのでしょうか。いずれにしてもこれから来年第1四半期にかけては、ワクチン接種の動向と合わせて往来再開のあり方がどうなるのかの趨勢を見極める期間となるのではないかと思われます。(松本)

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