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「旅行をあきらめない」ドラ息子、要介護者へ夢を届ける-ハンディネットワーク インターナショナル代表 春山哲朗氏(後編)

要介護・要支援者にも自己選択を
コロナ禍での試行錯誤から見えた新たな旅行の形

-コロナ禍中に実施した『SAKURA Delivery Project』と、今後の展開について教えてください

春山 コロナの影響で、高齢者施設では今年3月から外出や面会に制限がかけられるようになりました。グッドタイム トラベルでは昨年まで、春と秋を中心に介護施設の入居者を対象とした日帰り旅行を催行していたのですが、高齢者施設でもクラスターが発生し、今年のお花見旅行は難しいかもしれないと、一度は実施をあきらめかけていました。ですが、高齢者の方の中には「今年の桜が最後になるかもしれない」という方がいらっしゃいます。それを「仕方がない」で終わらせることがどうしても腑に落ちなかった。そこで始めたのが『SAKURA Delivery Project』です。

 「お花見」はどうやったら成立するか?桜の花、お花見弁当、一緒に楽しむ仲間……施設内でできないのは現場に行くことだけです。だとしたら、今年の桜を映像で届けることで、お花見の気分を味わってもらえるのではないか。すぐに関西の桜の名所5箇所で撮影を行い、約1時間の番組にまとめ、4月半ばにYouTube『Good Time チャンネル』で無料公開しました。

『SAKURA Delivery Project』の様子

 このバーチャルお花見を実施した高齢者施設にアンケート調査を行ったところ、結果は「来年は本物を見に行きたい」という回答と「来年もこの形式が良い」という回答とに二分されました。これは予想外のことで、体調が不安定なので施設内の方が安心して楽しめるという方が半数を占めたのです。ある意味でコロナが実験をさせてくれたと言えるでしょう。若い方からすれば、コロナ収束後にバーチャルツアーと言われてもさほど魅力的ではないかもしれませんが、世代によっては今までにない価値になり得るという、新しい発見でした。

 その気付きを裏付ける意味も含め、今年6月より、高齢者施設にバーチャルツアーを届ける『4 SEASONS Delivery Project』実現のためのクラウドファンディングを開始しました。リターンも決して豪華ではない中で、サービスの対象者ではない若い世代からどれだけの賛同が得られるか。結果は想像以上で、当初は120万円を目標としていましたが、1ヶ月半で300万円を達成。親族や自分たちが高齢になったときにこのサービスがあってほしいというGoサインと受け取りました。

 来年は、平均年齢85歳の1,000名が1年かけて世界一周をする、バーチャル世界一周ツアーを計画しています。映像を見ながらその国の食事を食べたり、現地の方とコミュニケーションを取ったり、伝統芸能を体験したり……毎回行程表を作成して、最後にはお土産も付ける。新しいエンターテインメントが創出できるのではないかと考えています。