travelvision complimentary

海外医療通信 2019年1月号【東京医科大学病院 渡航者医療センター】

  • 2019年1月29日
 ※当コンテンツは、東京医科大学病院・渡航者医療センターが発行するメールマガジン「海外医療通信」を一部転載しているものです

【リンク】
東京医科大学病院・渡航者医療センター

=====================================================

海外医療通信 2019年1月号           東京医科大学病院 渡航者医療センター


・海外感染症流行情報 2019年1月号

(1)全世界: 北半球でのインフルエンザ流行状況

1月になり北半球全体で季節性インフルエンザの流行が発生しています(WHO Influenza 2019-1-21)。米国やカナダではA(H1N1)型の流行が中心で、例年並みの患者数です。ヨーロッパではA(H1N1)型とA(H3N2)型の2つが流行しています。東アジアはA(H1N1)型が中心ですが、日本ではA(H3N2)型も増えています。この時期に北半球を旅行する際には、手洗いやウガイなどを十分に行ってください。

(2)アジア: 香港で百日咳患者が増加

2018年に香港で百日咳患者が110人確認されました(英国Fit For Travel)。2017年の患者数(69人)に比べて倍近くになっています。百日咳は飛沫感染する病気で、香港のように人口密度の高い場所では拡大しやすい感染症です。日本では百日咳ワクチンの接種が乳幼児期の定期接種だけであるため、思春期以降の抵抗力が低下しています。香港などの流行地域に長期滞在する際には、三種混合ワクチン(ジフテリア、破傷風、百日咳の混合ワクチン)の追加接種を受けておくことを推奨します。

(3)アジア: シンガポールでデング熱患者が増加傾向

シンガポールでは今年1月初旬の1週間で約200人のデング熱患者が発生しました(ProMED 2019-1-12)。同国では2018年にデング熱患者が約3000人確認されていますが、今年はそれを上回る数になることが予想されます(Outbreak News Today 2019-1-9)。ここ数年、シンガポールではデング熱の大きな流行がみられなかったため、今年は注意が必要です。

(4)アフリカ: コンゴ民主共和国でのエボラ熱流行状況

コンゴ民主共和国北東部で発生しているエボラ熱の流行は1月も続いています。昨年8月に流行が始まってから今年1月21日までの累積患者数(疑いを含む)は699人で、うち433人が死亡しました(WHO Disease outbreak news 2019-1-23)。今まで患者発生の多かったBeniでは流行が鎮静化していますが、別の地域での患者数が増えている模様です。最近1カ月間の患者発生数も約100人で大きな変化はありません。感染経路としては、患者を介護する際の接触とともに、葬式での遺体との接触も多いようです(WHO Disease outbreak news 2019-1-4)。

(5)アフリカ: ナイジェリアで黄熱が流行

西アフリカのナイジェリアでは2017年9月から黄熱の流行が拡大しており、2018年11月までに全土で3500人以上の患者が確認されました(米国CDC 2019-1-18)。患者発生は南部のEdo州で多く、州都Benin cityの近郊でも患者が発生しています(WHO Disease outbreak news 2019-1-19)。

(6)欧州: ウクライナで麻疹が流行

東欧のウクライナで昨年12月下旬から麻疹の流行が拡大しています。ポーランド国境に近いLiviなどを中心に、患者数は1月中旬までに5000人以上にのぼっています(ProMED 2019-1-12)。隣接するポーランドでも昨年11月~12月に300人以上の麻疹患者が確認されました(Outbreak News Today 2019-1-7)。ウクライナやポーランドに滞在する際には麻疹ワクチンの接種を検討してください。

(7)中南米: アルゼンチンでハンタウイルス感染症が増加

アルゼンチン南部のパタゴニア地方でハンタウイルス感染症の患者が増加しています。Chebut県では昨年10月末から今年1月20日までに29人の患者が発生し、11人が死亡しました(WHO Disease outbreak news 2019-1-23)。アメリカ大陸のハンタウイルスは重症の肺炎をおこします。ウイルスを保有するネズミの糞尿などから感染しますが、アルゼンチンでは以前に、患者から直接感染したケースもありました。今回の集団発生もその可能性があるため、慎重な調査が行われています。

 

・日本国内での輸入感染症の発生状況(2018年12月10日~2018年12月31日)

最近1ヶ月間の輸入感染症の発生状況について、国立感染症研究所の感染症発生動向調査を参考に作成しました。出典:https://www.niid.go.jp/niid/ja/idwr-dl/2018.html

(1)経口感染症:輸入例としては細菌性赤痢6例、A型肝炎1例、E型肝炎1例、ジアルジア1例が報告されています。

(2)昆虫が媒介する感染症:デング熱は10例で、東南アジアでの感染が7例でした。マラリアは3例で、ナイジェリア(2例)とルアンダでの感染でした。チクングニア熱が1例報告されており、タイでの感染でした。2018年の累積患者数はデング熱が201例(2017年は245例)、マラリアが50例(2017年は61例)で、いずれも前年に比べて減少しています。ジカウイルス感染症の輸入例報告はありませんでしませんでした(2017年は5例)。

(3)その他:麻疹が2例(感染国:マレーシア、ベトナム)、風疹が2例(感染国:中国、カンボジア)報告されています。百日咳は2例報告されており、いずれもフィリピンでの感染でした。

 

・今月の海外医療トピックス

航空機内での急病人発生頻度

JAMA(Jounal of American Medical Association)に航空機内での急病人発生に関する総説が掲載されました。1990年以降の医学論文(英文)に掲載されたデータを集計したものですが、発生頻度は604フライトに1回でした。日本の航空会社の一日フライト数は500~700とされており、各会社で毎日1回は急病人が発生していることになります。急病の原因としては失神が33%で最も多く、これは機内環境が若干の低酸素状態で乾燥していることに由来するようです。他には消化器疾患(15%)、呼吸器疾患(10%)、心血管系疾患(7%)が続きました。急病人発生時の対応は、半数が同乗した医師により行われました。

機内での急病人発生時に医療従事者が協力する際は、「不適切な医療行為で訴訟にならないか」と心配になります。しかし、日本の航空機内では刑事責任を問われることが一般にありません。民事に関しても、悪意や重大な過失がなければ責任を問われる可能性は少ないとされています。ただし、アルコールを飲んでいる際にはその旨を機内スタッフに伝え、了承が得られた上で対応するようにしましょう。(教授 濱田篤郎)

参考:JAMA December 25, 2018 Volume320, Number 24.

 

・渡航者医療センターからのお知らせ

第22回渡航医学実用セミナー(当センター主催)

当センターでは渡航医学に関連するテーマのセミナーを定期的に開催しています。今回は 「持病のある人の海外渡航」 「外国人労働者の健康問題」などをテーマに下記の日程で開催します。

・日時:2019年2月21日(木) 午後2時00分~午後4時30分

・場所:東京医科大学病院6階 臨床講堂

・対象:職種は問いません(どなたでも参加できます) ・参加費:無料 ・定員:約200名

・申込方法:当センターのメールアドレス(travel@tokyo-med.ac.jp)まで、お名前と所属をお送りください。ご返信はいたしませんのでよろしくお願いします。

・プログラム

  「持病のある人の海外渡航」 海外医療支援協会理事長 高林克日己先生(三和病院)

  「昆虫忌避剤の知識」 アース製薬株式会社 前田かほる様

  「外国人労働者の感染症対策」 東京医科大学渡航者医療センター 濱田篤郎

  「在日外国人のメンタルヘルス対策」 東京医科大学渡航者医療センター 松永優子

詳細は当センターHPを参照ください http://hospinfo.tokyo-med.ac.jp/shinryo/tokou/seminar.html