時間外労働はいかに削減すべきか-座談会レポート(後・匿名編)

  • 2018年11月12日

違反すれば刑事罰、訴訟・賃金倍返しも
弁護士と大手6社による「本音」の意見交換

貸与したIT機器で不測の事態も
「便利さ=仕事削減」とはいかず

パネリストの5名  多くの企業が実施しているノートパソコンやスマートフォン、タブレット端末などの貸与によるIT環境の整備については、あるパネリストが「デスクトップパソコンからノートパソコンに替えたことで、年配の社員からは『操作性が悪い』と言われた。『目が悪くなった』というクレームもあった」と報告。しかし他のパネリストの「時間外労働の削減のためのIT環境整備は欠かせない」という意見に対しては、誰も異論を唱えなかった。

 ただし、今年に入り全社レベルでオフィス用グループウェアを導入した会社のパネリストは「ペーパーレス化やウェブ会議なども推進しているが、まだまだ活用しきれていないといったところが本音」と心情を吐露。「データ共有のルールが曖昧で何もかも共有してしまっている。どのようにチェックして取り締まるべきなのか」「導入してしばらく経ち、勉強会の開催やマニュアルの制作なども実施しているが、30代後半以上の社員は必要最低限の機能しか使えない」と、2つの大きな課題が横たわっていることを説明し、今後については「誰もが使いこなせるようにし、働き方改革の一助にしたい」と語った。

 あるパネリストは「移動中などの隙間の時間に仕事ができるし、調べ物や営業先でのプレゼンテーションなどにも使えるので好評と聞いている」と説明。しかし一方では、勤務時間以外は基本的に社内に置いておかなくてはいけないはずの機器を、実際には相当数の社員が承認を得ずに自宅に持ち帰り、仕事をしていると見られることについても述べた。

 そのパネリストは印象深かった出来事として、ある支店に立ち寄った際、複数名の社員を終業後の食事に誘ったところ、そのうちの1人は明らかに会社が貸与したと見られる携帯電話で、店内から社内に残っている他の社員に「早く来るように」と連絡したエピソードを披露。「人事担当の私の前で、堂々と勤務時間外に会社の携帯を使用していることになるが、当人には悪いことという意識はない。結局は持ち帰りが横行している」と伝えた。

 あるパネリストは「ある社員が会社からスマートフォンを貸与されたところ、(節約のために)自身のプライベートのスマートフォンを解約してしまった」という不測の事態が発生したことを紹介。その上で「貸与したものが想定とは違う形で使われることもあるし、何か問題が発生すると総務担当者の仕事が増える。IT機器の整備については、モラルの問題も含めて取り組まなくてはいけない」と注意を促した。

 あるパネリストはIT機器の貸与について「最も怖いのは紛失のリスク」と主張。「多くの個人情報を取り扱うので、パスワードをかけたりセキュリティソフトを導入したりするだけでなく、覗き見防止用のフィルターを購入するなど2重3重の対策が必要。そうなると意外と費用がかさむ」とも指摘した。

 そのほか、あるパネリストが「携帯電話などはいつ鳴るかわからないので、逃げられないストレスがあると聞く」と説明。他のパネリストも「迅速なレスポンスを求められるようになったことが、一部の社員にとってプレッシャーとなってきている。単純に『便利さイコール仕事の削減』とはいかない」「作業の効率化こそ進んだが、一方で業務とプライベートの境目がなくなるリスクがある」と同調した。