海外医療通信 2018年5月号【東京医科大学病院 渡航者医療センター】

  • 2018年5月28日

 ※当コンテンツは、東京医科大学病院・渡航者医療センターが発行するメールマガジン「海外医療通信」を一部転載しているものです

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東京医科大学病院・渡航者医療センター

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・海外感染症流行情報 2018年5月号

(1)インド南部でニパウイルス感染症が流行

インド南部のケララ州で、5月からニパウイルス感染症により少なくとも12人が死亡しました(ProMED 2018-5-22)。患者の多くはコウモリに接触していますが、患者が入院した病院の看護師も死亡した模様です。ニパウイルスは大型のコウモリが保有するウイルスで、ヒトが感染すると重症の脳炎をおこします。コウモリとの接触やコウモリが触れた果物を食べて感染します。1998年にマレーシアで初めて流行が確認された後に、インドやバングラデッシュでも流行が発生しています。流行地域ではコウモリに接触しないよう注意するとともに、果物を食べる時は表面をよく洗うなどの注意が必要です。

(2)東南アジアでのデング熱の流行

東南アジア各国から報告されるデング熱の患者数は、今のところ昨年よりも少なく、まだ大きな流行はおきていません(WHO西太平洋 2018-5-10)。6月から多くの国が雨季を迎えるため、これから本格的な流行が始まることが予想されます。

(3)コンゴ民主共和国でエボラ熱の流行が発生

4月初旬、コンゴ民主共和国の北西部にある赤道州でエボラ熱の流行が発生しました(WHO 2018-5-23)。患者数は5月21日までに58人(疑いも含む)にのぼっており、うち27人が死亡しました。患者のほとんどは郊外での発生ですが、ムバンカという人口100万人の町で患者が1名確認されており、流行がさらに拡大することが懸念されています。WHOはMerk社が開発中のワクチンの接種を医療関係者を中心に開始しました(WHO 2018-5-21)。コンゴ民主共和国では1976年から今回を含めて9回のエボラ熱の流行が発生しています。

(4)ヨーロッパで麻疹流行が拡大

今年はヨーロッパ各地で麻疹の患者数が増加しています。フランスでは5月中旬までに2,173人の患者が確認されており、最近1カ月で500人以上増えています。患者の半数は南西部のNuvelle-Aquitaneでの発生です。この他にギリシアで1,948人、イタリアで805人、英国で404人の患者が確認されています。夏休みなどにヨーロッパを旅行する人は特に注意が必要です。

なお、今年は麻疹ワクチンの接種者が増えており、流通量が十分ではありません。日本では20歳代後半から40歳代前半の人が麻疹の抵抗力が弱いとされていますが、検査で抗体陰性を確認してから接種を受けることをお勧めします。

(5)ブラジルでの黄熱流行状況

ブラジルでの黄熱患者数は5月になり減少傾向にあります。その一方で、WHOは今後、流行地域が南部のParana州やSanta Catarina州に拡大する可能性を発表しています(WHO 2018-5-3)。また、チェコの旅行者がブラジル訪問から帰国後に黄熱を発病しました。この事例を含め今年になりヨーロッパ人6人がブラジルで黄熱に罹患しています(ヨーロッパCDC 2018-5-4)。今後も、ブラジルに滞在する際には、黄熱ワクチンの接種を受けることを推奨します。

(6)米国CDCがベネズエラへの不急不要の渡航を避けるよう勧告

南米のベネズエラでは経済の低迷などにより保健医療システムが正常に稼働していない状況が続いています。このため、今年になり麻疹、ジフテリア、マラリアなど感染症の流行が全土で拡大しています。こうした状況を考慮し、米国CDCはベネズエラを危険度レベル3(不要不急の渡航を避ける)に指定しました(米国CDCTraveler's Health 2018-5-15)。ベネズエラには日本からの観光客に人気のギアナ高地がありますが、現地に渡航を予定している場合は十分な感染症対策が必要です。


・日本国内での輸入感染症の発生状況(2018年4月9日~2018年5月6日)

最近1ヶ月間の輸入感染症の発生状況について、国立感染症研究所の感染症発生動向調査を参考に作成しました。出典:https://www.niid.go.jp/niid/ja/idwr-dl/2018.html

なお、国立感染症研究所ホームページでは輸入感染症の動向に関する新たなページを作成しています。こちらもご参照ください。

https://www.niid.go.jp/niid/ja/id/1709-source/transport/idsc/8045-imported-cases.html

(1)経口感染症:輸入例としては細菌性赤痢3例、腸管出血性大腸菌感染症5例、腸チフス・パラチフス3例、アメーバ赤痢5例、A型肝炎2例、E型肝炎1例、ジアルジア症2例が報告されています。前月と比較して大きな変化はありませんでした。

(2)蚊が媒介する感染症:デング熱は5例で、マレーシアでの感染が2例でした。デング熱の今年の累積患者数は34例で、2017年同期(63例)、2016年同期(118例)に比べて大幅に減少しています。マラリアは2例で、モロッコとインドでの三日熱マラリアの感染例でした。また、チクングニア熱のフィリピンでの感染が1例報告されています。

(3)その他:麻疹の輸入例が3例報告されており、全例がタイでの感染でした。風疹は3例で、このうち2例がフィリピンでの感染でした。ミャンマーで百日咳に感染した事例が報告されています。

 

・今月の海外医療トピックス

狂犬病ワクチンの新たな接種指針

WHOが狂犬病ワクチン接種指針の改定を発表しました(Weekly Epidemiological Record. April 2018 No16,2018,93)。これまで、暴露前接種は0・7・21~28日目に各1本ずつ計3回の接種とされていましたが、改定後は、0・7日目に各1本ずつ計2回接種をする方法が推奨されています。また、暴露後接種については、暴露前接種を受けていない場合、従来は0・3・7・14・28日目の計5回の接種でしたが、改定後は、0・3・7・14~28日目に計4回の接種になります。暴露前接種が完了している場合は、従来どおりの2回接種(0・3日目)です。今までは、暴露前接種に21~28日間が必要でしたが、渡航までに7日間あれば接種が可能となります。ワクチンの添付文書の改定はまだされておらず、この接種方法を臨床の場で直ちに実施するか否かは議論のあるところですが、新たな接種方法をご希望の場合は、医療機関の接種医師にご相談ください。(渡航者医療センター医師 栗田直)

 

・渡航者医療センターからのお知らせ

第20回渡航医学実用セミナー(当センター主催)

当センターでは、渡航医学に関連するテーマのセミナーを定期的に開催しています。今回は「海外出張者の健康管理」をテーマに、下記の日程で開催します。

・日時:2018年6月28日(木) 午後2時00分~午後4時30分  ・場所:東京医科大学病院6階 臨床講堂

・対象:職種は問いません ・参加費:無料 ・定員:約100名

・申込方法:当センターのメールアドレス(travel@tokyo-med.ac.jp)まで、お名前と所属をお送りください。ご返信はいたしませんのでよろしくお願いします。

・プログラム(詳細は当センターHPをご参照ください)http://hospinfo.tokyo-med.ac.jp/shinryo/tokou/seminar.html

「海外出張者の健康管理対策の現状と今後」 東京医科大学渡航者医療センター 濱田篤郎

「航空機移動にともなう疲労と海外出張者への対策」 日本航空株式会社健康管理部 牧信子先生

「海外出張者の健康管理と企業の安全配慮義務」 丸の内総合法律事務所 中野明安先生