クルーズから宇宙旅行まで-東大でグローバルヘルス合同学会

  • 2018年1月24日

渡航医学会など3学会が最新の研究発表
キリンは「プラズマ乳酸菌」をアピール

日本渡航医学会とキリンホールディングスによる共催セミナーの様子  海外を訪れる日本人の健康管理や疾病対策などについて研究している日本渡航医学会、日本熱帯医学会、日本国際保健医療学会の3学会は昨年11月、東京大学本郷キャンパスで、各学会が毎年開催している学術大会を合わせた初の合同学術大会「グローバルヘルス合同学会2017」を開催した。3日間にわたりおこなわれた多数の講演やディスカッション、セミナーなどのなかから、本誌とも縁の深い日本渡航医学会によるセッションのいくつかを紹介する。


長期クルーズの疾病、過半数は風邪やインフル
ワクチン接種や保険加入の徹底を

佐才氏  初日には、日本渡航医学会の若手研究者向け表彰制度「マルコポーロ医学会賞」の受賞講演として、岡山大学大学院環境生命科学研究科の佐才めぐみ氏が「長期クルーズ旅行における疾病罹患率に関する研究」の結果を発表した。看護師で保健師の佐才氏は冒頭で、日本でも長期クルーズ旅行に対する関心が高まり、外国船社による外航クルーズの利用者が急増していることを説明。その上で、クルーズ旅行者の大半が健康面のリスクが大きい高齢者であること、依然としてクルーズ旅行における健康問題に関する知見が限られていることを指摘した。

 同研究は、ある外航クルーズ会社が2012年5月から13年10月にかけて運航した5回の長期海外クルーズの乗客リストと船内診療所の診療記録をもとに、日本人乗客が経験した疾病について調査したもの。クルーズ1本あたりの運航日数は最短85日・最長103 日で、平均乗船日数は92日、総乗客数は4180名、総クルーズ人日数は38万3854日だった。最年少2歳・最年長93 歳の乗客の平均年齢は54.3 歳で、割合は男性が44.4%、女性が55.6%。乗客の98.7%が日本人だった。

 集計の結果、相談を除く船内診療所での対応記録数は4379件。受診歴があった乗客数は1485 名で全体の約36%を占めた。傷病発生件数は2279件で、疾病を12の疾患群に分けて受診件数を見たところ、男女ともに全年齢層で最も多かったのは風邪やインフルエンザなどの「呼吸器系」で全件数の56.6%を占めた。以下は「胃腸系・下痢症」が10.5%、骨折などの「損傷・外因性」が8.0%と続いた。

初日の会場は安田講堂  年齢層別では60歳以上について、呼吸器系など複数の疾患群で罹患率が顕著に高まる傾向が見られた。なお、疾病によるクルーズからの離脱は24名で、内訳は「損傷・外因性」、不整脈などの「循環器系」、躁鬱病などの「精神・行動障害」が各6名、肺炎などの「感染症」が4名、胃潰瘍による「消化器系」が1名だった。

 佐才氏は、性別や年令以外のリスク要因情報が不足していることなど、研究には課題が残ることを自ら指摘した上で、「長期クルーズ旅行者は海外旅行保険への加入、医療従事者はインフルエンザなどのワクチン接種勧奨を徹底すべき」と総括。そのほか、特にシニアに対しては、情報提供や既往症の管理など、疾病リスクを軽減させる予防策が重要になると強調した。同講演の座長を務めた日本渡航医学会理事長の尾内一信氏は「これまでにはなかった調査で素晴らしい」と同研究を高く評価した。