itt TOKYO2024

海外医療通信 2017年12月号【東京医科大学病院 渡航者医療センター】

  • 2017年12月25日

※当コンテンツは、東京医科大学病院・渡航者医療センターが発行するメールマガジン「海外医療通信」を一部転載しているものです

【リンク】
東京医科大学病院・渡航者医療センター

=====================================================

・海外感染症流行情報 2017年12月

(1)日本で外国人の結核患者が増加

国立感染症研究所の発表によれば、2016年は日本で1万7000人の結核患者が新規に報告されました(病原微生物検出情報 2017年12月号)。このうちの8%は外国生まれの患者で、2006年の4%に比べて約2倍になっています。とくに20歳代の患者の6割近くは外国人です。国別ではフィリピン、中国からの外国人が多くなっていますが、最近はベトナム、ネパールからの外国人患者の増加が顕著です。

(2)アジアでのデング熱の流行状況

12月は東南アジアでのデング熱の流行が鎮静化しています(WHO西太平洋 2017-12-5)。1月に入ると、インドネシア、マレーシア、シンガポールは雨が多くなり、蚊が増えるため、注意が必要です。

今年は南アジアでデング熱の流行が拡大し、スリランカで17万人、パキスタンで12万人の患者数になりました(英国FitForTravel 2017-12-4, WHO 2017-12-13)。インドでも南部で患者数が昨年より大幅に増加しました(ProMED 2017-12-2)。

(3)アジアでのジフテリア流行

バングラディッシュにある「ミャンマーからのロヒンギャ難民キャンプ」でジフテリアの患者が多発しています(WHO 2017-12-13)。昨年11月からの1年間で、小児を中心に800人以上の患者が確認されました。中東のイエメンでも今年8月から11月までに100人以上のジフテリア患者が発生しています(WHO東地中海 2017-11-19)。同国では内戦が勃発しており、コレラ患者も100万人に達しています(WHO東地中海 2017-12-19)。

ジフテリアは患者から飛沫感染する病気で、上気道炎をおこすとともに、心臓や神経系の重篤な障害を併発します。ワクチン接種で予防できる病気ですが、内戦などでワクチン接種が受けられない状況になると流行が発生します。なお、今年はインドネシアでもジフテリアの患者が600人近く発生しており、昨年(約400人)よりも増加傾向にあります(ProMED 2017-12-9)。

(4)マダガスカル都市部でのペスト流行は終息

11月末にマダガスカル保健省は、首都アンタナナリボなど都市部で発生していたペストの流行が終息したことを発表しました(WHO 2017-11-27)。マダガスカルでは今年8月からペストの流行が始まり、2500人以上の患者が確認されています(WHO 2017-12-15)。ヒトから飛沫感染する肺ペストが7割以上を占め、アンタナナリボでも患者の発生がみられていました。12月になり都市部での流行は終息しましたが、山岳地帯などでは患者発生がみられており、引き続き警戒が必要です。

(5)北米で季節性インフルエンザの流行が始まる

カナダでは12月に入ってから季節性インフルエンザの流行が始まり、患者数が増加しています(WHO 2017-12-11)。ウイスルの種類としてはA(H3N2)型が多く検出されており、例年よりも早い時期からの流行になっています。米国でも12月中旬に季節性インフルエンザの流行期に入ったことが発表されました(CDC Flu View 2017-12-16)。

(6)ブラジルで黄熱流行のリスク続く

ブラジルのサンパウロ州で7月以降、黄熱患者が2人発生し、動物の集団感染例も120件確認されています(米州保健機関 2017-12-13)。動物の集団感染はカンピーナス周辺で多くみられていますが、10月中旬にはサンパウロ市内の公園でも確認されました(WHO 2017-11-24)。ブラジルの都市部で動物の集団感染が確認されたのは1942年以来です。ブラジルでは今年になり南部のミナス・ジェライス州を中心に黄熱の流行が発生し、6月までに779人の患者が発生していました。今後もブラジルに滞在する際には、黄熱のワクチン接種を推奨します。

 

・日本国内での輸入感染症の発生状況(2017年11月6日~2017年12月10日)

最近1ヶ月間の輸入感染症の発生状況について、国立感染症研究所の感染症発生動向調査を参考に作成しました。出典:https://www.niid.go.jp/niid/ja/idwr-dl/2017.html

(1)経口感染症:輸入例としては細菌性赤痢5例、腸管出血性大腸菌感染症2例、腸・パラチフス4例、アメーバ赤痢8例、A型肝炎1例、ジアルジア症1例が報告されています。前月と大きな変化はみられていません。

(2)蚊が媒介する感染症:デング熱は14例で、前月(18例)からやや減少しました。感染国は前月と同様にインドが4例と最も多く、カンボジアが2例で続いています。デング熱の今年の累計は239例で昨年同期の327例に比べて大幅に減少しています。マラリアは4例で、アフリカでの感染が3例、南米での感染が1例でした。ジカウイルス感染症は2例でフィリピンとメキシコでの感染でした。ジカウイルス感染症は今年の累計は5例ですが、そのうちの2例が11月~12月の発生になります。

(3)その他:風疹が1例で、感染国はフィリピンでした。マダニに媒介されるライム病が1例発生しており、北欧のフィンランドでの感染でした。

 

・今月の海外医療トピックス

(1)ペットショップの子犬からのキャンピロバクター感染に注意

今年も残すところ数日。来年は戌年ですが米国CDCのサイトに表記の注意が掲載されています。詳細は原文を参照願いますが、2017年12月12日の時点で米国の17の州でペットショップの子犬が原因と思われるキャンピロバクターの感染97例が報告され、そのうち89例に聞き取り調査がなされました。98%が発症から1週間以内に当該のペットショップで子犬と接触があり、21例はその従業員とのことです。キャンピロバクターは薬剤耐性が問題となっていますが、上記の12例でアジスロマイシン、シプロフロキサシン、クリンンダマイシン、エリスロマイシン、ナリジクス酸などに耐性を認めているようです。

子犬に罪はありませんが、ペットと接触した際は手洗いを励行し、過剰な接触は避ける必要があります。(古賀才博)

https://www.cdc.gov/campylobacter/outbreaks/puppies-9-17/index.html

(2)WHOがデング熱ワクチンに使用制限

サノフィ社が製造しているDengvaxiaは、現在、世界で販売されている唯一のデング熱ワクチンです。日本では承認されていませんが、世界19カ国で承認され、接種が行われています。このワクチンに関して、12月13日にWHOは、「過去、デング熱に感染しことがない人には接種しないように」との公式見解を発表しました。このワクチンを「デング熱に感染したことがない人」に接種した場合、2倍以上の頻度で、デング熱感染時に重症化がおきることが明らかになっています。一方、「デング熱に感染したことがある人」に接種した場合は、デング熱再感染時の重症化を減らすことができます。日本からデング熱流行地域に渡航する人の多くは、過去、デング熱に感染したことがないと予想されるため、日本国内でこのワクチン接種の適応は少なくなるものと考えます。(濱田篤郎)

http://www.who.int/medicines/news/2017/WHO-advises-dengvaxia-used-only-in-people-previously-infected/en/
 

・渡航者医療センターからのお知らせ

第19回渡航医学実用セミナー(当センター主催)

当センターでは、渡航医学に関連するテーマのセミナーを定期的に開催しています。次回は「海外からの医療搬送」をテーマにして、下記の日程で三菱重工の宮城啓先生、インターナショナルSOSの葵佳宏先生にご講演をお願いしています。

・日時:2018年2月22日(木)午後2時~午後4時半 ・場所:東京医科大学病院6階 臨床講堂

・プログラムや申込み方法は1月に当センターのホームページでご案内します。http://hospinfo.tokyo-med.ac.jp/shinryo/tokou/seminar.html