新財源検討会、JATAなどからヒアリング-議論本格化へ

 観光庁は10月5日、新たな財源確保策について検討する「次世代の観光立国実現に向けた観光財源のあり方検討会」の第3回会合を開催し、前回に続き関係者からのヒアリングをおこなった。同検討会は国内外の旅行者の受益と負担のあり方や、訪日旅行への影響を勘案した上で、「出国税」の導入を含む新財源の導入策や使途について検討するもの。この日は旅行業界、宿泊業界、海運業界、全国知事会から、財源確保の選択肢として俎上に載せられている「出入国」「航空旅行」「宿泊」について、旅行者に負担を求めた場合の影響などを聞いた。

 会議は非公開で、終了後の観光庁の説明によれば、旅行業界からはJATA理事長の志村格氏と、全国旅行業協会(ANTA)副会長の近藤幸二氏が出席。「出入国」「航空旅行」「宿泊」について各団体の見解を示し、ともに「旅行者への影響は大きい」として、慎重な議論を要望した。考えられる問題点としては、旅行需要への悪影響に加えて、旅行会社が徴収代行を担う場合の業務負担増などを指摘。旅行者に負担を求める場合は「できるだけ少額の定額負担」とし、徴収対象を受益が大きい訪日外国人のみに限る案も示したという。

 使途については、WiFiスポットの整備など受入環境の改善に加えて、日本人の海外旅行の振興に資する施策に充当することを要望。一例として外務省の「たびレジ」と旅行会社のシステム連携の促進に充てること、ANTAについては「会員の多くを占める第2種および第3種の旅行業者が、急増する訪日外国人旅行者に対応できていない」として、これらの旅行会社を何らかの形で支援することを提案したという。なお、JATAは10月10日に臨時の記者会見を開催し、志村氏がJATAとしての見解について説明する。

 宿泊業界からは、全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会など3団体が出席。訪日外国人旅行者の受入環境整備に関する施策などにおいては日本人が受益ものとなりにくいこと、すでに「宿泊税」を徴収している自治体においては2重課税による需要への影響が考えられること、各地の「入湯税」が目的外の使途に使用されているケースが散見されること、民泊を含めて国内におけるすべての宿泊をカバーすることが難しいことなどを指摘し、宿泊客に新たな負担を求めることに対して、消極的な姿勢を示したという。

 海運業界からは日本外航客船協会(JOPA)と、外航クルーズ船社を代表してゲンティン香港が出席。旅行業界と同様に「日本人の旅行への影響が大きい」と懸念を示したほか、クルーズ会社などが徴収を代行する場合、航空業界のようにチケットに上乗せするシステムが整備されていないことがネックになることを説明。そのほかには、1回のクルーズに複数回の日本出国などが含まれるコースがあることについても紹介し、「1回の旅行で複数回の出国税を徴収するようなことがないように」と要望した。使途については、港湾における出入国手続きの円滑化や、セキュリティの強化に資する施策への充当を求めたという。

 全国知事会からは地方税財政常任委員会の委員長を務める富山県知事の石井隆一氏が出席し、同会における地方税財源の検討状況について説明。新たな財源として宿泊税の法定化の検討が必要との考えや、国が新たな観光財源を検討する際には地方譲与税として地方にも配分を求める考えなどについて紹介した。ただし現時点では、譲与税の配分などに関する詳細な検討は進んでいないという。

 記者団の取材に応じた観光庁は「各業界からは総じて慎重な議論を求められた」と振り返った上で、3つの選択肢のうち「出入国」については、「一定の理解を得られたところも多いとの印象を受けた」と説明。今後は「出入国」によりフォーカスして、具体的な導入策を議論する可能性が高いことを示唆した。なお、この日の会合では事務局も各業界も、徴収額に関する具体的な意見や提案はなかったという。

 今後は10月19日に第4回、24日に第5回の会合を開催して論点を整理するとともに、使途などについて本格的な議論を開始。第6回以降は中間取りまとめに向けた議論に入り、具体策を来年度の税制改正大綱に盛り込む。