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海外医療通信2017年9月号【東京医科大学病院 渡航者医療センター】

※当コンテンツは、東京医科大学病院・渡航者医療センターが発行するメールマガジン「海外医療通信」を一部転載しているものです

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東京医科大学病院・渡航者医療センター

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海外感染症流行情報 2017年9月号

1)フランス、イタリアでチクングニア熱の患者発生

チクングニア熱は蚊に媒介されるウイルス疾患で、アジアや中南米など熱帯地域で流行しています。今年はフランスやイタリアの地中海沿岸でも患者が発生しており、滞在中は蚊に刺されない注意が必要です。

フランスではマルセイユ近郊のVar県で患者が発生しており、8月は6人、9月は2人の患者が確認されました(ヨーロッパCDC 2017-9-1, 22)。イタリアでは9月にローマとその近郊で患者が多発しており、9月中旬までに患者数は92人にのぼっています(英国NaTHNaC 2017-9-22)。チクングニア熱はデング熱と同様の症状をおこしますが、関節痛が強いのが特徴です。今回のフランス、イタリアでの流行は、熱帯の流行地域から入国した患者が起点になり、国内流行をおこしたものと推測されています。

2)アジアでのデング熱流行状況

東南アジアの多くの国は雨季を迎えており、デング熱の流行が発生しています(WHO西太平洋 2017-9-12)。マレーシア、シンガポール、フィリピンでは患者数が例年より少なくなっていますが、ベトナムでは8月末までに患者数が10万人を越えており、例年よりも50%近く増えています。とくに、首都ハノイで2万人以上の患者発生がみられています。
今年は南アジアでのデング熱の患者数も多く、スリランカでは8月末までに14万人、インドでは3万人以上の患者が確認されました(英国FitForTravel 2017-9-6)。

3)アジア南部での季節性インフルエンザ流行

7月からアジア南部で季節性インフルエンザの流行が発生しています(WHO 2017-9-18)。インドなど南アジアではA(H1N1)型、タイやカンボジアでは全ての型、中国南部ではA(H3N2)型が多く検出されています。香港でも8月まで多数の患者が発生していましたが、9月になり流行は鎮静化しました。アジア南部では雨季に季節性インフルエンザが流行する傾向があり、今年はそれが顕著になっている模様です。

4)アジアでの麻疹流行

日本では2015年に麻疹の流行根絶が宣言されましたが、アジア各国ではまだ多くの患者が発生しています。最近のWHO西太平洋事務局の発表によれば、アジアにおける患者発生率の上位国は、マレーシア(100万人あたり45.4)、シンガポール(16.6)、フィリピン(7.7)となっています(厚生労働省検疫所 2017-9-7)。麻疹は空気感染する病気で、ワクチン接種が最も効果的な予防方法です。日本では20歳代後半~30歳代の世代で麻疹の免疫力が低く、この世代の人が麻疹の流行国に滞在する際には、事前にワクチン接種を受けておくことを推奨します。

5)オーストラリアでの季節性インフルエンザ流行

南半球のオーストラリアでは6月~8月が季節性インフルエンザの流行シーズンになりますが、今年は例年以上の数の患者発生がみられています(英国FitForTravel 2017-9-20)。8月末までに患者数は13万人にのぼっており、9月も流行が続いている模様です。検出されるウイルスはA(H3N2)型とB型が多くなっています。なお、日本国内では10月から今シーズン用のインフルエンザワクチンが販売される予定です。

6)ギリシャでマラリア患者が発生

ギリシャ西部のイオニア海沿岸地域などで、2017年にマラリア患者が5人発生しました(ProMED 2017-9-16)。マラリアは蚊に媒介される病気で、今回検出されたのは良性の三日熱マラリアでした。ギリシャでは、蚊に媒介される西ナイル熱の患者も今年は40人確認されています(英国FitForTravel 2017-9-20)。フランスやイタリアではチクングニア熱が流行していることから、ヨーロッパの地中海沿岸諸国に滞在する際には、蚊に刺されないようにご注意ください。

7)ブラジル南部での黄熱流行が終息

ブラジル政府は9月6日に黄熱の流行終息を宣言しました(ProMED 2017-9-7)。同国では昨年末から南部のミナス・ジェライス州などを中心に黄熱患者が多発していました。9か月間の確定患者数は771人で、このうちの261人が死亡しました。今回の終息宣言にかかわらず、ブラジルでは今後も黄熱に感染するリスクがあるため、滞在する際は事前に黄熱ワクチンの接種を受けておくことを推奨します。

・日本国内での輸入感染症の発生状況(2017年8月7日~2017年9 月3日)

最近1ヶ月間の輸入感染症の発生状況について、国立感染症研究所の感染症発生動向調査を参考に作成しました。出典:https://www.niid.go.jp/niid/ja/idwr-dl/2017.html

1)経口感染症:輸入例としては細菌性赤痢4例、腸管出血性大腸菌感染症8例、腸・パラチフス3例、アメーバ赤痢3例、ジアルジア症2名、E型肝炎3例が報告されています。E型肝炎患者の1名はハワイでの感染で、感染源は生の牛肉か豚肉が疑われています。先進国に滞在する際にも、肉は加熱したものを食べるようにしましょう。

2)蚊が媒介する感染症:デング熱は輸入例が36例で、前月(20例)より大きく増えました。感染国はインドが11例と最も多く、ミャンマー、ベトナムが各7例で続いています。海外感染症流行情報にも記載したように、今年はインドなど南アジアでデング熱の流行が拡大しており、この地域に滞在する際には十分な注意が必要です。マラリアは7例で、アフリカでの感染が6例、インドでの感染が1例でした。
 
・今月の海外医療トピックス

サルに咬まれたら?

前回もご紹介しましたが9月28日は世界狂犬病の日です。狂犬病による死亡の多くはイヌ咬傷によるものですが、哺乳動物は感染リスクがあるためネコやコウモリ、サルなどにも注意が必要です。

サル咬傷に関しては、日本国内でも観光客を襲う被害が報告されていますが、海外でサルに咬まれて、狂犬病ワクチンの曝露後接種を受けることも珍しくありません。その場合、狂犬病に加え、破傷風やBウイルスのリスクも考えておく必要があります。Bウイルス感染症の国内例は報告されていませんが、世界的には今までに50例の報告があります。発症すると重篤な脳炎を起こすことから、曝露後72時間以内の抗ウイルス薬の投与を検討する必要があります。その場合、米国CDCではアシクロビル800mgを1日5回14日間の経口内服などを推奨しています。出血を伴い深い咬傷であれば積極的な曝露後内服を行うべきですが、軽度の咬傷やしばらく経過した症例では悩むことも多いのが現実です。サルに咬まれた場合、まず行うべきことは傷口の洗浄であり、流水と可能であれば石鹸を用いた洗浄が有効です。 兼任講師 古賀 才博
https://www.cdc.gov/herpesbvirus/firstaid-treatment.html CDCのサイト
https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/na/je/392-encyclopedia/470-b-virus-info.html 国立感染症研究所のサイト
 
・渡航者医療センターからのお知らせ

1)グローバルヘルス合同大会(日本渡航医学会、日本熱帯医学会、日本国際保健医療学会主催)
日本のグローバルヘルスに関係する学会の合同学術集会が下記日程で開催されます。渡航医学に関する特別講演やシンポジウムが数多く予定されています。日本渡航医学会の会長は当センター教授の濱田が務めます。多くの方々の参加をお待ちしています。
・日時:2017年11月24日(金)~26日(日) ・会場:東京大学・本郷キャンパス 
・プログラムや参加方法はグローバルヘルス合同大会のホームページをご覧ください。
  http://www.pco-prime.com/globalhealth2017/

2)渡航者医療センターでの黄熱ワクチン接種
渡航者医療センターでは黄熱ワクチンの接種を受けることができます。A型肝炎や破傷風など他のワクチンとの同時接種も行っており、複数のワクチンを希望される方が、1か所で接種を終えることができます。海外勤務者の場合、所属企業への請求も契約により可能ですので、ご希望の方は当センターまでご連絡ください。