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【寄稿】森本剛史氏追悼-伝説の旅行書コンシェルジュの本棚

  • 2015年1月20日

棚作りの極意と面白さ

 家から近いのでしばしば代官山蔦屋書店に行っては、森本と立ち話をした。「もっと、地球の歩き方を目立つところに置いてくれよ」「いいえ、地球の歩き方は指名買いが多いので、全タイトルを切らさないように常備しておくことが大事なんです」と確信を持って反論する。「目の高さに、新しい本やこんな本があったのか、というタイトルを並べる」とか「ガイドブックと小説のシーンが響き合えば最高ですよね」とか「世界一周というコーナーを作りました。今だからこそ夢がある」「男の旅と女の旅に分けて、好きな書き手の旅の本を並べている」など、森本の旅行書の棚作りに関してのコメントは、限りない。

 すぐ横に旅行会社のカウンター(T-トラベル)があり、森本自身もツアー企画を試みて同行したりしている(ミャンマー、キューバ、熊野など)。カウンターの向こう側には、彼の郷里でもある熊野に関する書籍を集めた一角があり、テレビ番組にもなったのだが、現地でしか手に入らない希少本もそろえて作ったコーナーだ。ロンリープラネット(英語版)がずらりと並び、旅に関する雑誌のコーナーもある。

 一人の男がつくった旅行書の日本一の棚は、生き物なので日に日に変化する。まだ森本テイストが残る今のうちに、半日か一日ツアーで見に行く価値のあるスポットである。とくに旅を仕事にする人には必見だ。

 最後に「森本剛史の10冊」を紹介して、追悼の旅を終わりにしたい。

1.百年の孤独 ガルシア・マルケス 新潮社
2.ユリシーズ(1)(2)(3)(4) J・ジョイス 集英社文庫
3.夏の闇 開高健 新潮社
4.何でも見てやろう 小田実 講談社文庫
5.西江雅之自選紀行集 西江雅之 JTB
6.Ambarvalia/旅人かへらず 西脇順三郎 講談社文芸文庫
7.世界は一冊の本 definitive edir 長田弘 みすず書房
8.罪と罰(1)(2)(3) ドストエフスキー 光文社文庫
9.坊ちゃん 夏目漱石 新潮文庫
10.ブルックリン・フォリーズ P・オースター 新潮社 

 森本曰く。「教養」をつけるには、古今東西の名作を読むに限る。「百年の孤独」は南米が舞台だし、「ユリシーズ」はダブリンの1日の物語、「ブルックリン・フォリーズ」はニューヨークのブルックリン地区を背景に素敵な変わり者たちの幸福の物語。すべて旅と関連する本を選んでみた。

 この10冊の小説と紀行の取り合わせを見ただけでも、森本剛史の光るセンスと棚作りの底力を感じさせてくれる。いい旅を!


寄稿:西川敏晴(トラベルジャーナリスト 前地球の歩き方代表)