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ネットと実店舗、相互の連携を−JATA経営フォーラム

  • 2011年3月30日
 JATA経営フォーラムのテーマ別分科会Aでは、「私はネット、あなたはリアル」と題したパネルディスカッションが開催され、インターネットを利用したネット型旅行業の立場から楽天トラベル、実店舗販売による店舗型旅行業の立場からJTBトラベランドがそれぞれの取り組みを示した。モデレーターを務めたサービス・ツーリズム産業労働組合連合会会長の大木哲也氏は、「旅行の販売はウェブを中心にシフトしつつある」が「リアルの店舗は昔と比べて役割が変化してきており、無くなることはない」として、「ネット型、店舗型それぞれが互いのやり方を取り入れていけるのかうかがいたい」と分科会のテーマを提示した。
                  
                  
●モデレーター
サービス・ツーリズム産業労働組合連合会会長 大木哲也氏
●パネリスト
サービス産業生産性協議会主席コンサルタント 向山聡氏
楽天トラベル常務執行役員事業戦略部長 鎌田啓之氏
JTB首都圏個人グループ営業担当部長 出井弘俊氏
(元JTBトラベランド営業企画部販売専任部長)



ネット型と実店舗
それぞれの顧客に適した取り組みを


 分科会でははじめに、パネリストとしてサービス産業生産性協議会主席コンサルタントの向山聡氏が登壇し、2010年3月に実施した日本版顧客満足度指数(JCSI)調査の実例を掲示。利用頻度別、顧客満足度別などにセグメントを分け、ネット型と店舗型の差を比較した。

 同氏によると、利用者を職業別に見た場合、店舗型はリタイア層を含む無職や専業主婦など時間の使い方に自由度が高い層が多いが、ネット型は会社員や自営業が多い。また、行き先別では、店舗型は海外旅行32.3%、国内旅行83.8%となった一方、ネット型は海外旅行19.6%、国内旅行88.8%となり、店舗型に比べ国内旅行の割合が多い結果となった。利用形態別では、店舗型ではパッケージツアー45.8%、団体旅行13.7%、個人旅行67.2%となり、パッケージツアーがおよそ半分を占めた一方で、ネット型はパッケージツアー18.8%、団体旅行8.4%、個人旅行90.2%となり、圧倒的に個人旅行が多い結果となった。

 また、向山氏によると、店舗型、ネット型それぞれで顧客心理も異なるという。たとえば60歳以上の利用者を比較した場合、店舗型では「魅力的な旅行プラン」「添乗員や現地職員の対応」「トータルの割安さ」「宿泊地の居心地、心遣い」を重視するが、ネット型では「予約サイトとしての信頼性」を重視しているという。また、利用頻度が低い層を比較した場合、店舗型では「案内、提供情報のわかりやすさ」が重視されるが、ネット型では「魅力的な旅行プラン」「メール、電話での問い合わせ対応」が重視され、「予約サイトとしての信頼性」などが軽視されているという。

 このように、店舗型、ネット型といった業態別による差だけではなく、利用頻度などによっても顧客が重視する項目が異なることから、向山氏は「1人1人をどれだけケアできているか」と問題点を指摘。店舗型もネット型もそれぞれ、顧客の個々の要望にアプローチする対応の重要性を示唆した。


気軽に予約ができるネット型
顧客サポートが今後の課題


 ネット型旅行業の代表として登壇した楽天トラベル常務執行役員事業戦略部長の鎌田啓之氏は、ビジネスの出張利用とされる1人利用に加え、レジャー目的の2人以上の客層を拡大していく考えを示した。楽天では、総合旅行会社と同じ機能をインターネットで実現することをめざしているが、鎌田氏によると団体旅行の取扱いには添乗員、食事、団体用バスなど、個別に具体的な手配が必要になる。そのため、「完全にインターネット上で総合旅行を実現するにはしばらく時間がかかる」見通しだ。まずは個人旅行の延長線上で対応可能な10名以下の小規模団体から取り込んでいく方針で、すでにグループ団体の予約サービス「あいのり」サービスを開始。「実験的な要素もあるが、比較的順調に推移している」という。

 鎌田氏は今後の課題として、充実したサポートによる顧客満足度の向上をあげた。ここ数年、2人以上のレジャー利用や海外旅行の予約が増加しており「旅行先で起きることへの対処については相当な課題と考えている」という。楽天では海外旅行者向けに中国でコールセンターを立ち上げ、24時間365日で旅行者への対応をしている。一方、国内旅行ではコールセンターはあるが予約対応専用で、顧客の質問などへの対応はメールでのみ受け付けているのが現状だ。鎌田氏は将来的には顧客サポート専用のコールセンターを立ち上げるとしながらも、「人員やコスト面を含め、どのようにしていくかが課題」と述べた。


インターネット活用し実店舗へ集客
ネットと実店舗をつなげる試みを


 店舗型旅行業の立場から登壇した、元JTBトラベランド営業企画部販売専任部長で、2月1日付でJTB首都圏個人グループ営業担当部長に就任した出井弘俊氏は、実店舗の強みとして、多様な情報を取捨選択して「お客様に的確にアドバイスできるコンサルティング力」をあげた。強みをいかすために社内のスキルアップ制度を活用して社員のコンサルティング力を強化することで、他社との差別化をはかっている。

 一方、弱みとしては、商品価格などの情報発信のスピード不足や、情報発信の範囲が限られていることをあげる。出井氏は、「インターネットは敵ではなく、インターネットを活用することで広範囲な集客が可能になる」とし、店舗の認知向上や商品情報のピーアールなどにインターネットを活用する必要性を強調。具体的な戦略としては、JTBのウェブサイトで販売している商品の申し込みや相談を実店舗で受け付けるなど、インターネットとのクロスチャネルを強化することで利便性の向上をはかり、集客につなげている。

 また、出井氏は「価格のイメージでリアル店舗はネットに負けているのでは」と指摘。「実店舗に置くパンフレットではインターネットのような価格変動型商品に対応できない」ことから、インターネットで販売されている宿泊商品を実店舗で手配旅行として販売したり、ウェブのパンフレットを店舗で印刷し店頭に掲出して宣伝するなど、インターネット商品を実店舗で活用しているという。出井氏によると、安価な商品を購入したいという消費者のニーズに加え、在庫を活用したいというサプライヤーのニーズにも対応した取り組みであり、「宿泊の単品販売がリアル店舗で減っているなか、今年の実績は前年を超えて伸びてきている」という。

 さらに、情報伝達能力の強化策としてモバイルメールを活用した情報発信も実施。顧客への販促メールや、申込者への旅行書類の送付を知らせるメールなど、顧客のニーズにあったメールを配信しているという。出井氏は「インターネットをうまく活用すれば、リアル店舗に顧客を集めることができる」と述べ、ネット型旅行業とリアル店舗が互いの強みを生かして連携することが重要であるとアピールした。





取材:本誌 栗本奈央子