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取材ノート:バーチャルとリアルつなぐ旅行業の役割−次世代の旅行動機(2)

  • 2011年1月26日
 「若者がゲームばかりして旅行に行かなくなっている、という決めつけがあるのではないか」。コロプラ取締役副社長の千葉功太郎氏は、IT業界から見て旅行業界の固定観念を感じるという。「情報感度を広く、壁をつくらない」ことが、ビジネスチャンスの鍵。千葉氏は、人には「動きたいという根源的な欲求」があり、「ゲームが好きな人も、きっかけがあって実際に行ってみると旅行の楽しさに気付く」と語る。昨年12月の旅行動向シンポジウム第2部の議論から、旅行業界に求められる「きっかけ作り」の役割を考えてみよう。
                       
                        
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◆ゲスト講師
冨塚 優氏(リクルート執行役員/旅行カンパニー 飲食情報カンパニー カンパニー長、
      ゆこゆこ代表取締役社長、ワールドメディアエージェンシー代表取締役社長)
千葉功太郎氏(コロプラ取締役副社長)

◆コーディネーター
小林英俊氏(JTBF 常務理事)
久保田美穂子氏(JTBF 主任研究員)



必要なのは「きっかけ」
行く「言い訳」をつくる


 千葉氏は、コロプラには「週末を家で寝ていた人」から旅行需要を創出する仕組みがあるという。まずは家から一歩を踏み出すようにゲーム上で仕掛けると、4ヶ月ほど経つうちに「もともと旅行をしなかった人でも、アイテムの獲得がてら徐々に週末旅行に行きたくなるユーザーが多い」との認識だ。目的があって出かけるので、お金を節約した旅行をしようという意識は薄いと分析している。

 ゲームをきっかけとした旅行だが、体験してみると評価は高い。リクルート執行役員/旅行カンパニー 飲食情報カンパニー カンパニー長の冨塚優氏によると、コロプラツアーの参加者の約半分は九州が初めてだったが、「行ってみたらよかった」との感想が聞かれた。コースはメジャーな観光地とマイナーな観光地をあわせて巡り、マイナーな観光地に意外と人気があったという。また、「熱海ラブプラス現象(まつり)キャンペーン」では、参加者が商店で店員とのおしゃべりを楽しんだりするうちに熱海を気に入り、家族や友人を誘って再び旅行に訪れるなど、「その後も想像以上の移動を生んだ」と久保田氏は述べる。

 千葉氏は、「若年層へのアプローチでは、エンターテイメントの競争のなかでゲームが旅行を上回ったかもしれないが、実際に行ってみるとやはり現実の方が面白いと分かる」と主張。冨塚氏は、「ゲーム好きも出かけたいし、リアルのコミュニケーションをしたいが、きっかけとモチベーションが足りないだけ」と指摘する。きっかけ作りとは言い換えれば、「出かける『言い訳』をいかに作ってあげるか」ということだという。



余暇の時間の獲得競争
ユーザー目線でニーズ拾う


 JTBF常務理事の小林英俊氏は、「旅行業界の人間は観光資源の魅力が人を惹きつけると信じているが、個人によっていろいろな動機があることを理解すべき」と述べ、「今までの方程式では解けない人の流れ」に注目する。冨塚氏は、「旅行業界はゲーム好きの『出かけたい』に気付いていない」と省みて、「若者が移動しないといわれるが、移動したいという気持ちを形にしきれていないだけ。材料を提供して遊ぶ手伝いをすることが、旅行業界に求められている」と語る。

 冨塚氏によると、現代の旅行のライバルは隣の旅館でも隣の地域でもない。旅行は、ゲームや他の娯楽との間で「余暇の時間の獲得競争」をしている。「ユーザーが何を求めているかは、旅行業界の目線で近づいていってもニーズを拾えない。ユーザーの目線になることが大切」だ。

 コロプラでは運営者が日々ツイッターでユーザーと交流し、ユーザーの声をいかに早く組み込んでいくかを重視している。ユーザーは誰でも運営者に対して意見を言うことができ、社長がそれを見てサービスを変更していくこともある。クレームを直接受け止めてフィードバックするので、ユーザー側は手応えを感じることができるという。



ネットとリアルつなぐ翻訳者必要
マスをねらわずターゲッティング


 無料ゲームであるコロプラは、ゲーム上でコンテンツに対する評価・応援やサービス向上のための投資として募る「投げ銭」のほか、ユーザーが提携機関で支払った料金の一部が完全報酬型で収入源となる。また、多くの人に実際に旅行に行ってもらい、リピーターになってもらうことを目標とする点では、旅行業と共通している。

 しかし、コロプラはIT企業のため、旅行業に関しては協力者が必要だ。同社がリクルートと協働した理由は、リクルートにコロプラのユーザー社員がおり、旅行業界とゲームの世界観をどちらも理解できると判断したからだという。インターネット上で起きることを現実の世界に結びつけるには、間に立って仲介する「コーディネーター」の役割が重要となる。千葉氏は「今、旅行業界に求めたいのはバーチャルとリアルをつなげて翻訳する人」だと提起する。

 ゲーム好きな人による旅行市場は、マスではない。今回のシンポジウム会場でも、3分の2はコロプラを知らない。しかし冨塚氏は、マス市場をねらう必要はないと述べる。知らない人はまったく知らない一方で、ハマる人はハマり、ゲームを共通項にひとつの集団ができて旅行までするようになる。たとえ少数であっても、その人達にどれだけ請求力があるかが決め手だという。対象を限定した方が成功率は高く、その市場をいくつ持てるかで、販路を確保する戦略だ。冨塚氏は「観光地に2軒の店があるとする。1軒の店には蕎麦一筋100年という看板が立ち、もう1軒にはラーメン、うなぎ、とんかつなどが一緒にある。どちらに入りたいか」と例をあげ、ターゲッティングの重要性を説く。

 千葉氏は無料のソフトであってもクオリティを重視し、「エンターテイメントを追求することは、ネットもリアルも関係なく大変なこと」と発言。ネットでもリアルでも、良いものは良い。生まれた時からインターネットがある「ネットネイティブ」世代にとっても、それぞれの地域の良さや本当においしいものの価値は普遍だと述べる。

 また小林氏は、コロプラが地域活性を理念としていることを受け、「環境への配慮や社会性も大きな評価要因」とし、地域との連携によるビジネスと社会性の両立にも言及した。IT業界からは、「本気でエンターテイメントに取り組む姿勢を提示されている」とJTBF主任研究員の久保田美穂子氏。ゲームやITだけでなく、業界の枠を超えた広い視点を養い、従来のビジネスモデルを問い直していく姿勢を身につけたい。


取材:福田晴子