旅行業・観光業DX・IT化支援サービス
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キーパーソン:JATA理事・事務局長の越智良典氏(前)

旅行会社は「確かな情報」でテロに対抗
安心と安全を確保し、確実なツアー催行を

 日本旅行業協会(JATA)理事・事務局長の越智良典氏はこのほど本誌の取材に応じ、ここ数年業界を悩ませている海外でのテロ事件などに対し、旅行会社が取るべき対策について語った。越智氏は近畿日本ツーリスト(KNT)の海外旅行部長などを務めるなかでリスク対策に関するノウハウを蓄積し、現在は業界を代表するスペシャリストとして、外務省との調整役や各種セミナーの講師などを務めている。旅行会社がいかにして旅行者の安心と安全を確保し、確実なツアーの催行につなげるべきかについて聞いたインタビューを、2回に分けて紹介する。

─旅行会社のリスク対策に関心を持ったきっかけは

越智 KNTで海外旅行の現場にいた頃は、自ら団体旅行を企画し、営業や添乗も担当していたが、今から20数年前に100名近いイスラエルへの産業視察ツアーを直前にキャンセルせざるを得なくなったことがあった。外務省の危険レベルが出発の前日に2に上がったためで、当時は国土交通省がレベル2以上の地域への企画旅行を禁止する通達を発出していた。成田空港に集合した時点で中止を知らされたお客様もいた。

 イスラエルは周囲の国々の脅威にさらされている分、安全管理に関しては徹底している国だ。視察団の行程についても政府が管理し、厳重な警備体制を整えていた。それでも中止となったことに、大きなショックを受けた。

 その後、本社の海外旅行部長に就いた2001年には米国同時多発テロ事件が、その後の03年にはイラク戦争の開始、SARSや新型インフルエンザのパンデミックなどがあり、海外旅行が大きく落ち込んだため、さまざまな取り組みを開始した。当時の旅行業界にはリスク対策について意欲的な人は少なかったが、自分としては「海外旅行を何とかしなくては」という危機感が強かった。何か“武器”を持っていなければ、何かある度に被害者やキャンセルの数ばかりが増えて、我々は謝るだけの役回りになってしまう。

 そこで03年に始まった外務省と民間の協力会議には、自分も幹事として参加させていただき、領事部(当時。現在は領事局)の邦人保護業務への協力を開始した。また、04年にはJATAの海外旅行委員会に「安心安全部会」を作り、2代目の部会長も務めた。05年からは旅行業界からの唯一の役員として、海外邦人安全協会の理事を務めている。

 海外旅行で事件が発生すると、その度に責任者はキャンセルの件数や損失の試算をして経営陣に報告しなくてはいけない。しかしそれは死んだ子の年を数えるような作業で、結局は「国内旅行部はうい奴だが、海外旅行部はまた損をして」と言われるだけの話だ。しかも現場では「どうすればお客様の安全を確保できるのか」「ツアーはいつから再開できるのか」といった難問に直面させられる。

 どうすればお客様を「安心して旅行できます」と送り出し、キャンセルも最小限に抑えられるか。さらには、どうすればキャンセル数以上に多くのお客様を獲得して、その年の最後に「海外旅行部は頑張った」と胸を張れるか。そんなことを考えて、海外旅行が抱える問題を解決するための対策に取り組んできた。