インタビュー:阪急阪神ビジネストラベル西日本営業本部長の坂東哲夫氏

  • 2011年4月25日
関西の風土を大切にしながら、全世界に対応するプロ集団へ

 業務渡航の動向において、大阪を中心とした関西圏には、東京を中心とした首都圏とは違う特性が見られる。「製造業の多い関西は、企業に強い体力がある」と、阪神阪急ビジネストラベル取締役で西日本営業本部長の坂東哲夫氏は語る。世界経済の成長に伴い、業務渡航の需要は今後成長すると予測する一方、航空会社の手数料カットや直販、LCCの参入など旅行会社にとっては難題も多い。業務渡航専門会社として、業務渡航需要をどう獲得していくか。関西市場の特徴をふまえた営業戦略を聞いた。

※インタビューは東日本大震災発生前の2011年2月下旬に実施しました。
                      
                     
▽関連記事
インタビュー:日本旅行 西日本海旅商品部部長兼営業本部担当部長の黒田氏(2011/04/18)
インタビュー:JTB西日本海外旅行部部長の佐々野真一氏(2011/04/12)
主要旅行会社、2月の海外旅行取扱額は9.2%増−外国人旅行が24.1%増に(2011/04/19)
スペシャリスト・インタビュー<TC>:阪急阪神ビジネストラベル 齋藤幸司さん(2010/09/06)
阪急交通社と阪神航空が統合へ−業務渡航専業会社も設立(2009/04/01)


−ここ数年間の海外への業務渡航において、関西市場がどのような現状にあるか、ご見解をお聞かせください

坂東哲夫氏(以下、敬称略) ここ数年間では2008年のリーマンショックの影響が大きい。海外渡航者全体の数字を見ても、2008年は約7%、2009年は約2%と2年続けて低下しているが、業務渡航は約8%から9%と、全体数以上に落ち込んだ印象がある。新型インフルエンザの時は、業務渡航は全体数と比較すると落ち込みが少なかったので、景気低迷の影響でここ2年は苦戦した。だが、2010年は復調傾向に入り、レジャー需要に比べると業務渡航は大きく伸びた。


−2010年は業務渡航を中心に復調したとのことですが、リーマンショック以前の数字まで回復したのでしょうか。その傾向は特に関西圏において顕著だと思われますか

坂東 回復段階から成長段階に入ったと見ている。日本の景気も戻りつつあるが、それ以上に海外の経済成長率が高いのが要因だ。GDPを見ると、日本の成長率は1.5%程度なのに比べて世界では4%から5%、中国やインドは10%近い成長が予測される。

 関西圏の特性という観点では私はもともと関西を拠点にしてきたが、4年前から3年間、東京でも業務渡航事業を担当した。昨年4月、新会社の発足にともない地場に戻ったので、首都圏と関西圏の市場を比較して見ることができる。

 関西圏でも厳しい状況が続いていたのは確かだが、関西は世界を市場に持つ製造業が多いので、全体として企業に体力があった印象だ。海外の成長に引っぱられるかたちで、関西圏には、日本の成長以上に業務渡航需要の伸びが感じられる。旅客数の低下にも歯止めがかかり堅調に推移しているが、景気悪化による経費削減の影響はあり、ビジネスクラスが売れにくくなった。PEX運賃や正規割引運賃といった航空会社による施策も影響している。


−業務渡航需要で、関西圏と首都圏で大きく異なるのは、どのような点でしょうか

坂東 「きめ細やかなサービスを望む」「価格を重視する」「包括契約」といったBTMを求めるなど、顧客にはさまざまなニーズがある。顧客の分布を見ると、外資系企業や大企業の割合が高い首都圏では、BTMがより求められるのが大きな違いだ。関西圏の特徴としては、個々の企業の求めるものがはっきりしている。

 回復の速度においては、首都圏の方が関西圏より遅い印象がある。関西圏に多い製造業に話をフォーカスすると、拠点を海外にシフトした企業は、首都圏に比べて関西の方が少ない。その結果、首都圏では輸出より輸入が増え、経済が回復しない。首都圏は、2000年代に入ってからずっと貿易赤字が続いていると聞いたこともある。関西圏は、まだ日本に製造拠点を残しているので、急成長はしなくとも、輸出による利益があるようだ。

 また、フィー・ビジネスへの理解は、首都圏の方が若干早いようだった。関西圏では、商売人魂があり、お金がかかることにはシビアだ。ただし、誠意を示し、時間をかけて説明することで、最終的には理解をいただけた。企業努力を明示すればわかってくださる率が高いのも関西圏の特徴だ。


−御社グループの再編は、関西圏において大きな強みになったと理解しています。肌感覚で感じられるメリットとは、どのようなものでしょうか

坂東 関西ならではの市場の特徴にも関連してくるが、関西の企業には地元や取引先を大切にする風土がある。誠意を持って対応すると、それにきっちり返していただけるのが関西の特徴だ。そんな関西圏で、阪急と阪神は再編によって大きなグループ企業になり、鉄道、不動産、ホテル、百貨店などさまざまな業態を手がけている。それぞれの企業がたくさんの取引先と付き合いがあり、我々にとっては業務渡航の取り扱いの機会に優位に働いている。

 地元に密着した関係を大切にするため、業務渡航専門の店舗を展開している。阪神、阪急ともに関西圏には3店舗を構えていたが、再編後は大阪の1店舗を集約し、大阪には現在2店舗。そのほか京都、神戸、工業地帯の尼崎にも地域に密着した業務渡航専門の支店を出している。

 首都圏の場合は、東京に一極集中するようだ。たとえば旧阪神の横浜にあった支店は、都内に集約した。この点も首都圏と関西圏の違いだ。


−関西圏からの国際線はこの数年間で大きく減少した一方、アジア圏のLCCの就航が相次ぎました。LCCの利用も視野に入ってくるのでしょうか

坂東 ご承知のように関空では国際線、国内線とも減便や機材縮小が続いた。関西経済連合会など関西の経済界では、関空を活性化しようという動きは以前からあった。我々旅行会社も力を入れてきたが、全方面で座席数が足りない。関西圏では、アジアや中国、インドは特にのびているのに、北京便が廃止された。ロングホールもほとんどなく、ヨーロッパ便も数えるほどだ。

 LCCについては、2010年末から2011年始にかけて、企業の関心が非常に高くなっていると感じた。社内会議では、関西圏で利用者の要望によりLCCを手配したという話もあった。今後は、業務渡航であってもLCCを活用していくのだろうと予測される。我々もLCCを研究し、利便性や安全性といったお客様が求めると予想される情報をまとめて整理し、提供できるように準備を進めている。

 ただし、LCCと業務渡航は親和性が悪い。現地で航空券の変更や他社の航空券へ振り替えができなかったり、機材不足でデイリー運航ができなかったり、一便が遅れると玉突きで次々に遅延が発生するなどデメリットもある。LCCではこれまで提供してきたサービスが制限されることもあるので、通常の航空会社ならこのようなバックアップができるが、LCCでは制限されるなど、明確な説明が必要だと考えている。今後は、価格だけを重視してLCCでいいというお客様も発生してくるとは思うが、爆発的に増えるかといえば、業務渡航では増えないのではないかと予測している。

 今後、旅行会社の状況は厳しくなっていくだろう。たとえば、航空会社からのコミッションカットの浸透や直販化、LCCの進出。その中で、増えるであろう業務渡航者をいかに獲得して、収益を上げていくかが課題になる。これまで以上に需要に合ったサービスを提供し、提供したサービスに対する対価をいただけるプロ集団に成長していかないと、生き残っていけない。


−生き残るためには、プロ集団に成長するということですが、今後の御社の強みは、どのようなところにあるとお考えですか

坂東 業務渡航においては、ニーズが多種多様化している。そのニーズを常に把握して、それぞれの希望を収束して取り組み、対応する。それができるのが、本当のプロの集まりだと考えている。

 BTMでは、現地での対応、危機管理をはじめ、ニーズは常に変化し、増えていく。また、BTMは望まなくても、このサービスだけは利用したい、という需要もあるので、その場合はパーツ使用料をいただく。パーツ対応は、競合他社への対抗手段にもなると考えている。
将来的には、業務渡航専門の現地対応スタッフの配置も必要だろう。中国とインドでは、すでに自社スタッフが対応している。また、ランドオペレーターやTMCとの連携も考えながら、全世界対応をめざしていく。


−ありがとうございました