itt TOKYO2024

MICEインタビュー:パーパスジャパン代表取締役 酒井修一氏

  • 2009年7月28日
MICE成功のキーワード(5)
「要望に120パーセント応えること」


 ヨーロッパのツアーオペレーターを前身とするパーパスジャパンは、幅広いネットワークを活かして「テーマ・目的型」のコンセプトツアーを企画・販売している。法人営業ではスポーツメーカーやワインスクール、出版社、テレビ局、タレント事務所などとのコラボレーションを展開。大手旅行会社と異なる独自の市場開拓が特徴だ。そんな同社のツアー展開や取り組みを見て、手配を依頼するオーガナイザーも多いという。同社代表取締役の酒井修一氏に話を聞いた。



Q.これまでのMICEへの取り組みについて教えてください

 当社では「テーマ・目的のある旅」の提案を理念としており、MICEもその中の一つと捉えています。はじめにテーマありきで、そのテーマ性のあるワインツアーを企画したり、企業のインセンティブに応用したりという形なので、ことさらにMICEのみを区別したり、前面に出したりはしてはいません。

 したがってMICEという枠組みはそれほど意識しておらず、法人営業の1つとして取り組んでいます。現在、法人営業では、芸能・音楽業界のファンクラブツアーに非常に力を入れています。近年、芸能人やミュージシャンの海外公演が増加しているので、その動きにあわせて取り組みを強化し、コンサートのための機材、音響設備の揃った各国の施設を仔細に調査しています。

 ファンクラブツアーの規模は300人から500人が最も多く、最小で約50人、多いと1000人以上。コンサートのスタッフは4人から15人程度です。人数とフライトのキャパシティによってデスティネーションを絞り込み、さらにコンサート以外の部分でもファンクラブの方たちに喜んでいただけるよう、企画を練っていきます。


Q.芸能・音楽以外の業界に関する展開はありますか

 自動車会社や保険会社など、大型インセンティブを実施している既存の業界への進出はあまり考えていません。すでに大手旅行会社の市場が成立していること、大型インセンティブになると万が一中止となった場合のリスクが高いことが、その理由です。会場だけ、交通だけといった部分的な手配もしていません。「目的型の旅」というコンセプトを第一にして大手旅行会社とは一線を画し、提案するアイディアによって明確な違いを打ち出していく方針です。

 当社ではツアーオペレーター業務もしていますので、オペレーターとしての情報力が手配力の根底。今まで誰もやったことがないような企画でも、情報ネットワークを活かして突破口を開くよう手を尽くします。そのためには現地の取り引き先にも協力をお願いしたいですし、ホテルには料金プランやユニークな演出の情報があれば、積極的に提供してもらいたいですね。

 現在、芸能・音楽業界の団体旅行向けに拡大を計画しているのが、クルーズです。クルーズだと音響や照明の付帯設備、食事、バンケットルームがすべて整っているので、ホテルを会場にして音響を他から借りてこなければならない場合に比べて費用対効果が高いと考えています。


Q.MICEの「テーマ・目的」にはどのようなものがありますか

 高級婦人服を販売する、ある企業のインセンティブツアーの例を紹介しましょう。100名規模で毎年実施しており、行き先はパリをベースに、モナコ、ミラノ、スイスなどを組みあわせた2都市です。

 こちらの企業ではヨーロッパ風のファッションを扱っているので、ヨーロッパ文化の体験がテーマになると思います。したがってホテルもヨーロピアンスタイルですし、食事も本格的なヨーロッパ料理。40名ほどのVIPグループを対象に、オーベルジュやシャトーホテルを用意することもあります。表彰式も開催しますが、式典よりむしろ、上質な旅行体験そのものが商品である洋服の価値や歴史の理解につながるという見方です。

 このようなインセンティブツアーは、旅による社員自身の価値観の成長が販売力に結びついてきますから、同時に教育旅行でもあるといえるでしょう。したがって顧客側は、たとえ費用をかけてでも「勉強するチャンス」を重視していると思います。大切なのは自ら体験すること。そのためフリータイムを設けて、各自のテーマに沿った能動的な旅行をしていただいています。美術館に行く人、生地屋さんに行く人、洋服屋さんに行く人。それぞれが主体的に何かを学ぶことで、内面を高める効果が生み出されます。インセンティブでも他の旅行でも、これこそが一番大切な、旅の本質ではないでしょうか。


Q.今後のMICE営業の戦略をどうお考えですか

 当社では、こちらから営業にまわるというより、お客様の方からツアー企画を見て依頼してくださることが多いですね。つまり、企画自体が営業になっているのです。たとえばウェブサイトで当社のワインツアーを見つけた大学からは、ワインの市場調査に関する視察研修旅行を依頼されました。製菓専門学校からのリクエストで、ヨーロッパでお菓子とパンをテーマにした視察を手配したこともあります。最新の企画では、まもなく開始するパイロットシュミレーションツアーも、注目を期待できそうです。

 メディア・コーディネーター業務が盛んなことも、手配の実績につながっています。今度タレントによるエコロジー視察ツアーを実施するので、それがまた環境関連の企業との架け橋になるでしょう。環境問題や社会貢献に関連した旅の提案は、積極的に推進しているところです。自転車を使ったツアーのほか、マレーシアのサバ州観光局と植林や珊瑚保全をテーマにしたツアーについて検討を進めています。

 当社の業務において、MICEは「テーマ・目的型の旅」の一つであるという位置付けは今後も変わりません。基本は、顧客の要望があり、それに応えるという仕組み。そしてその要望以上に応えることです。100パーセントでは足りないでしょう。120パーセントが成功の秘訣だと思います。


ありがとうございました


▽過去の成功のキーワード
KNT ECCカンパニー販売部長 稲田正彦氏 顧客ニーズを十分に掴み、提案できる「引き出し」の数を増やす(2009/06/30)
ジャパングレーライン 専務取締役 安達敏春氏 ハードウエア、ソフトウエアだけでなく、「ハートウエア」の発展を(2009/06/09)
ジェイティービー 旅行マーケティング戦略部 久家実氏 市場に対する価値提供(2009/05/22)
日本旅行MICE 営業部 部長 石垣隆久氏 専門部署スタートでMICE営業を集中強化、プロ育成をめざす(2009/04/14)