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スペシャリスト・インタビュー:シニア旅行カウンセラーズ 北川武人さん

アメリカ、中国方面の需要喚起が2000万人達成の重要ポイントに

 今回、ご登場いただいた北川さんは、海外渡航自由化以前の1952年に旅行業界に入られ、現在も海外旅行業務に携わっていらっしゃる大先輩です。日本旅行業協会(JATA)の一般旅行業取扱主任者や旅程管理者の講師、各種教科書の作成などにも携わられるなど、旅行業務や教育指導を含む豊富なキャリアに加えて、アメリカのDSを取得されたほか2008年度は中国を受講されており、業界に対する強い思いがうかがえます。今回は長年のご経験から、業界の変遷のお話と現在の動向に対するご意見をいただきました。

 企業組合 シニア旅行カウンセラーズ
 北川 武人さん 
 2006年度(第2回)デスティネーション・スペシャリスト アメリカ認定


 
Q.海外渡航自由化以前から、海外旅行業務をされていたのですね。その当時の業務を教えていただけますか

 私が業界に入った当時の海外旅行業務は、特にアメリカとの関係が強く、日本人の渡米のほか、国内の米軍基地の帰還兵やその家族に対して米国内の航空券や鉄道などの乗車券の引換証を販売していました。帰還兵の出身地は全土にわたりますから、私は行ったことがないアメリカの、名前も聞いたことがない小さな街まで地図で調べ、タリフで運賃計算をしていました。

 この業務のおかげでアメリカ全図が頭に入り、親近感を持つようになって大好きな国のひとつになったのです。これまで添乗や出張で約半数の州を訪問しましたので、アメリカには個人的にかなりの情報を持っているつもりでしたが、DSを受講してみると知らないことが多く、日々の学習、経験の積み重ねが大切であることを痛感しました。

Q.長くアメリカ旅行に携わっていらっしゃいましたが、現在のツアーをどのようにご覧になっていますか

 アメリカの魅力はやはり、都市と自然のコンビネーションにあると思います。この切り口だけでも多様な魅力が取り上げられると思うのですが、従来のアメリカツアーは西海岸と東部に二分され、ほとんどが定番商品。もっと中部や南部との組み合わせを含め、バラエティのある企画があっても良いと思います。例えば、アメリカの広大さを実感するようなコースはどうでしょうか。西海岸ではルート5号線に沿って太平洋岸を南北に走るバス旅。または大陸横断のルート40号、ルート66号、ルート70号を行くバス旅など面白いですよね。シニア層には長距離や長時間の移動は控えたゆったりしたコース、若者には思い切ったコースの旅行が喜ばれるでしょう。

 また、添乗員なしのスケルトンツアーが増えていますが、これは万が一の際の現地対応さえ確保していれば問題なく、旅行代金を下げる意味で良いことだと思います。逆に添乗員付きのツアーはなるべく社員添乗員をつければ、手配上の問題点や新商品用の情報などを察知でき、さらなるサービス向上や新商品のヒントにつながります。

Q.新しい商品を生み出すにはどうすればよいと思いますか

 アメリカのツアーに西海岸や東部が多いのは、日本の旅行会社の支店のみならず、米国内のランドオペレーターも偏っていることがあげられると思います。とはいえ、商品を開発し、販売するのは日本の旅行会社なのですから、われわれの勉強やアメリカに対する情熱が不足していることも原因かと思います。アメリカにはぜひ、デスティネーション開発のための“超党派”チームを送りこみ、研究すべきだと思います。私はこれまでの経験からアメリカ、そして中国方面への需要喚起が、日本人の海外渡航者数2000万人台へ引き上げる重要なポイントになると思っています。

Q.現在、中国のDSも挑戦されているのですね

 中国もアメリカと同じく広く、勉強は大変です(笑)。でも、有望な市場で、大切に育てていきたいと思っています。しかし現在、中国への渡航者数の減少をカバーすべく一時しのぎの安売りが散見され、懸念しています。例えば、今年のお正月の新聞広告には北京4日間2万7800円7食付、上海5日間で3万7000円10食付などが販売されていました。必ずしも「安かろう、悪かろう」ではないと思いますが、値段に関わらず「もう二度と行きたくない」と思われるような旅行ではリピーターは育たず、業界全体の損害となることを忘れないで取り組んでいただきたいと思います。両国の旅行業者、お客様の3者ともハッピーにならなければ長続きはしません。もちろん、こうした旅行を実現している旅行会社も多く見られます。

 日本から中国への観光旅行は、1972年の国交正常化を経て79年に自由化、本格的なパッケージツアーが開始されました。同年10月に初の中国向けパッケージツアー「ルック中国」を販売し、80年上期商品は4社共同でルック中国を実施。1月に全国一斉販売をしたところ、爆発的に売れた。私は当時、旅行プロデューサーとしてルック中国の造成に携わり、そのインパクトを知っているからこそ、中国の重要性を伝えたいのです。

Q.最後に、長いご経験のなかでも印象に残り、私達の参考になるようなエピソードを教えてください

 渡航中の事故でお客様が亡くなられたことがありました。私はご遺族に同伴して現地へ赴き、ご遺体を帰国させるという仕事に関わったのです。ツアーを手配した支店では「海外旅行傷害保険」を勧めたものの断られたとのことで、ご遺族と支店担当者の間で「なぜもっと強く、保険加入を勧めてくれなかったのか」と話がされたことを覚えています。それ以降、参加申込書には保険加入の意思の有無を記入することになり、担当者には説明と契約に向けた努力が義務付けられました。こうした経験もあり、私がお世話するお客様の海外旅行保険付保率は100%です。

 また、添乗にも思い入れがあります。食事は旅行の重要要素の一つですが、海外渡航自由化の初期の頃、日本人団体に用意されるテーブルは、窓のない薄暗いコーナーや出入り口付近などが多かった。しかし、送客人数の増加につれて良くなってゆき、添乗員のリクエスト通りのテーブルが用意されるようになってきました。「好きなところを使ってください」と、手を広げて迎え入れてくれることもあります。

 こうなったのは、旅行業界の諸先輩方の努力であり、お客様の協力があったからこそでしょう。また、添乗員がレストランの責任者と仲良くなって相互に好印象を持つことも成功の秘訣。とはいえ、現在でも必要以上にコスト削減をすると、位置取りやサービスが悪い場合があります。社員添乗の機会が減り、責任者と密なコミュニケーションをとれなくなっていることも、影響するかもしれませんね。

ありがとうございました。


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