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スペシャリスト・インタビュー:ANAセールス 佐々木茂さん

旅行業は生涯最高の感動を与えられる職業
学んだことを披露できる場所は無限にある


学生時代に旅行に携わってから足かけ28年。添乗からキャリアを開始し、ANAセールス入社後は国内・海外の発券やセールス、システム開発、支店経理、座席管理、現職の販売サポートなど、担当していない仕事はないというほど幅広い業務を担当してきた佐々木さん。イタリアのDS以外にもさまざまな資格を取得され、つい先日にはワイン・エキスパートの資格に合格し、業務にどう活用するか思案中とのこと。これまで「一つのツアーも手を抜かずにやってきた」そうですが、その背景には心動かされる物語がありました。

ANAセールス株式会社
販売サポート部長 佐々木茂さん
2007年度(第3回) デスティネーション・スペシャリスト 
イタリア・マルタ認定



Q.大学生の頃から旅行業界で働き始めたそうですね

 大学入試の英語の腕試しをかねて、海外旅行添乗員の採用試験を受けました。客室乗務員志望で接客業が好きでしたので、合格して実務に就けば、学生のあいだに業界の知識を得られるかもしれないという期待もあったのです。そして学業と並行して1年目は成田空港でのセンディング、2年目から国内ツアーの添乗員をはじめました。実戦的な接客レベルが求められるため、社会経験の少ない大学1年生の時には厳しく、向いていないと思ったこともありますが、一生懸命に取り組むうちにアンケートで良いコメントを頂くことが増え、それを励みにがんばりました。その後、海外ツアーの添乗員やチーフ添乗員も経験し、卒業後に他業種に就職するも添乗の仕事を忘れられず、元の会社に戻って海外をメインに添乗業務を続けていました。最高で年間300日ほど添乗に出ていたこともあります。


Q.これまでクレームを受けられたことがないと伺いました

 私は、1つのツアーも手を抜かずに取り組んできました。担当したツアーごとにさまざまな思い出がありますが、この意識が特に強く変わったのは、3年目に添乗した2つのツアーでの経験です。その1つのツアーでは、末期がんのお客様の言葉に胸を打たれました。その方はツアーの後、お客様に御礼のお声がけをしていた私に「明日からつらい治療が始まるけれども、このツアーで楽しかったことを思い出してがんばる。完治してあなたのツアーに参加するから待っていて」と仰ってくださいました。私はその時に、旅行は人に感動を差し上げられるすごい仕事なのだと実感し、長く続けていこうと思ったのです。

 それからもう一方は、1泊2日の会津若松ツアーでのことです。当時の私は、大学生ながらチーフ添乗員で好きな方面を選ぶことができ、遠距離を中心に添乗していました。ツアー中はもちろん手を抜くことはしませんが、「1泊2日の国内旅行」を軽く見ていた部分もあったのです。しかし、最終日のツアー解散後、お客様を見送った後で、駅の出入り口に出てきた私を、参加者全員が「佐々木さんにお礼が言いたくて、皆で待っていました」と待ち構えていてくださいました。その瞬間、私にとっては多くのツアー参加者でも、お客様にとっては1人の添乗員であるし、私にとっては数千回行く場所でも、お客様には一生に一度の旅行なのだと、本当の意味で気付いたのです。


Q.イタリアが好きだったとのことですが、DSを受講した感想は

 イタリアは、もともと添乗でも好きなデスティネーションです。周遊型ではバスの移動が長いのも特徴ですが、車中での話題が尽きません。例えば、その日の食事で作りやすいメニューがあれば、「重さのないおみやげ」と言って作り方のコツを紹介することもあります。

 自信も経験もある方面なので、講習を受けなくても試験は満点だと思っていたのですが、受けてみると難しい部分がありました。というのも、添乗ではナポリ、ローマ、フィレンツェなど、ゴールデンルートが中心ですが、DSではプーリア州やカラブリア州など、以前のツアーではあまり訪れない方面の問題もあるからです。おかげで知らなかったイタリアに気付くことができました。デスティネーションの人気は常に変化していきますので、新しい知識を得て情報を整理することは重要だと思います。

 実務では、特にFITのお客様にルートを提案するのに役立ちました。お客様の希望やニーズ、条件などをうかがいながら旅程を組み、なぜそうすべきなのかを説明しながら提案することができました。パッケージ商品を販売する場合も同様で、根拠のある提案はお客様の後押しとなります。そうした意味で、DSを取得して知識を深め、自分の販売ツールにするのは有意義だと思います。現在は弊社社員の研修に携わっているので、社内教育用のeラーニング教材でイタリアの問題を作成する参考にしています。


Q.旅行業は必要な知識が多く、自己学習も大変です

 確かに幅広く、多くの知識が必要ですが、努力の成果を披露する機会は無限にあり、勉強するのが楽しい仕事です。また、その努力によって、お客様に生涯最高の思い出をプレゼントできる仕事でもあります。

 例えば、これは私の好きな料理やワインの知識を活かせたツアーの話です。以前、VIPのお客様のイタリアツアーを任され、企画から添乗まで全てを担当する機会がありました。参加者が少人数で、皆様がグルメだとうかがったのでエスコート・アレンジの形をとり、レストランの料理やワインはその場で決めました。訪れた日の旬の食材を使った最高の食事とそれにあう最高のワインを楽しんでほしかったからです。その場でメニューにはない料理やワインを出してもらったりもしました。皆様にはとても満足して頂き、お客様の1人は亡くなる前に、人生で一番楽しいツアーだったと仰ってくださったそうです。

 旅行業は形のない商品を売っています。私たちは、お客様には知識として残るもの、思い出に残るものを差し上げることしかできませんが、そのやり方によってはお客様の心に一生残るものを提供できる、そういう業界だと思います。一方で、形のない商品を売ることは他の業種とは違う特別な仕事だと思われがちですが、旅行商品を造成して販売し、利益を得るという意味では他の産業と変わるところはありません。謙虚さを忘れずに、努力してたくさんの感動を提供してほしいし、それに喜びを感じられる人はぜひ旅行業界に来てほしいですね。


ありがとうございました


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